【2025年版】猫のワクチン(予防接種)の種類・費用・時期を獣医師が一覧で解説

人間と同じように、猫にも病気を予防するためのワクチン接種は、健康で長生きするために非常に重要です。感染すると命に関わる病気から愛猫を守り、つらい思いをさせないためにも、正しい知識を身につけましょう。

この記事では、猫のワクチンで予防できる病気の種類や症状、予防接種の費用相場、適切な接種時期や回数について、獣医学的なガイドラインを交えながら詳しく解説します。

ワクチンが存在する猫の病気は?症状は?

猫のワクチンについては、世界小動物獣医師会(WSAVA)が提唱するガイドラインが世界的な基準となっています。このガイドラインの主なポイントは以下の通りです。

  1. 動物に優しい、科学的根拠に基づいたワクチネーションを実施する。
  2. ワクチンを、すべての猫に接種すべき「コアワクチン」と、飼育環境やリスクに応じて接種を検討する「ノンコアワクチン」に分類する。
  3. ワクチンの過剰接種を避けるため、成猫のコアワクチンは3年以上の間隔をあけて接種する。

このガイドラインに基づき、猫のワクチンで予防できる主な病気は6種類に分類されます。

中でも「コアワクチン」の対象となる病気は、どれも命の危険性が高いものです。一方「ノンコアワクチン」は、多頭飼いや屋外に出る機会があるなど、他の猫と接触する可能性が高い場合に接種が推奨されます。

  • コアワクチン対象疾患
    「猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症:FPV)」「猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス感染症:FHV)」「猫カリシウイルス感染症(FCV)」の3つです。
  • ノンコアワクチン対象疾患
    「猫白血病ウイルス感染症(FeLV)」「猫免疫不全ウイルス感染症(FIV:猫エイズ)」「猫クラミジア感染症(FChF)」の3つです。

猫汎白血球減少症(FPV)

「猫パルボウイルス」によって引き起こされる致死率の非常に高い伝染性の胃腸炎です。感染猫の便や尿、嘔吐物などに接触することで感染します。特に子猫が感染すると、症状が出てから1日足らずで命を落とすこともある、非常に恐ろしい病気です。

猫ウイルス性鼻気管炎(FHV)

「猫ヘルペスウイルス」による感染症で、いわゆる「猫風邪」の代表的な原因です。くしゃみ、鼻水、発熱、目やに、食欲不振などの症状が見られます。重症化すると脱水症状や衰弱が進み、命を落とすこともあります。子猫や高齢の猫、体力が落ちている猫は特に注意が必要です。

猫カリシウイルス感染症(FCV)

猫ウイルス性鼻気管炎と同様に「猫風邪」の原因となり、混合感染することも多い病気です。くしゃみや鼻水といった風邪の症状のほか、口内炎や舌の潰瘍が特徴的に見られます。肺炎を併発すると重症化し、死亡するケースもあります。

猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

感染猫とのグルーミングや食器の共有、ケンカによる咬み傷、母子感染などによってうつる病気です。感染初期には発熱、食欲不振、貧血、リンパ節の腫れといった急性症状が見られます。一度症状が落ち着いてもウイルスは体内に潜伏し、数年後に再活性化するとリンパ腫(血液のがん)や白血病、重度の貧血などを引き起こし、多くは死に至ります。

猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)

通称「猫エイズ」とも呼ばれ、主に感染猫とのケンカによる咬み傷から感染します。感染初期に軽い風邪のような症状が出た後、数年間は無症状の期間が続きます。しかし、その後ウイルスの活動が活発になると免疫機能が破壊され、口内炎や下痢、皮膚病など様々な病気を繰り返し、最終的には死に至る病気です。

猫クラミジア感染症(FChF)

正式には「クラミドフィラ・フェリス」という細菌による感染症で、感染猫との接触でうつります。主な症状は結膜炎で、最初は片方の目から粘り気のある目やにが出始め、両目に広がります。くしゃみや鼻水などの呼吸器症状を伴うこともあり、子猫では肺炎を起こして重症化する危険性もあります。

猫のワクチンの種類と値段

猫のワクチンには、複数の病気を一度に予防できる混合ワクチンが主流です。飼育環境や獣医師との相談の上、どの種類のワクチンを接種するかを決めます。

猫の三種混合ワクチン

すべての猫に接種が推奨されるコアワクチンです。室内飼育で他の猫との接触が全くない場合に選択されることが多いです。

  • 予防できる病気:猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症
  • 値段の目安:4,000円~6,000円程度

猫の四種混合ワクチン

三種混合ワクチンに、猫白血病ウイルス感染症の予防を加えたワクチンです。屋外に出る機会があったり、多頭飼育の場合に推奨されます。

  • 予防できる病気:三種混合ワクチン + 猫白血病ウイルス感染症
  • 値段の目安:5,000円~7,000円程度

猫の五種混合ワクチン

四種混合ワクチンに、猫クラミジア感染症の予防を加えたワクチンです。猫白血病と同様に、感染リスクがある場合に選択肢となります。

  • 予防できる病気:四種混合ワクチン + 猫クラミジア感染症
  • 値段の目安:5,500円~7,500円程度

猫免疫不全ウイルス感染症に対する単体ワクチン

猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)のワクチンは、現在単体でのみ接種可能です。そのため、必要に応じて混合ワクチンと組み合わせて接種します。接種については、その有効性やリスクを獣医師と十分に相談する必要があります。

猫にワクチンを打つ時期は?

猫のワクチン接種計画は「ワクチネーションプログラム」と呼ばれ、猫の年齢や健康状態、生活環境によって最適なスケジュールが異なります。

子猫は生まれてからしばらくの間、母乳を通して母猫から免疫(移行抗体)をもらって病気から身を守っています。この移行抗体が体内に残っている時期にワクチンを接種しても、十分な効果が得られません。

そのため、初めてワクチンを打つ時期は、母乳を飲んで育ったかどうかで変わってきます。

  • 母乳で育った子猫:移行抗体が少なくなる生後8週齢ごろに1回目を接種。
  • 母乳を飲んでいない子猫:移行抗体がないため、生後6週齢ごろから接種を開始。

最も重要なのは、母猫からの移行抗体がほぼなくなる16週齢以降に最終のワクチンを接種することです。この時期に接種することで、ワクチンによる確実な免疫を獲得できます。そのため、通常は生後8週齢から4週間ごとに2~3回のワクチン接種を行うのが一般的です。

ただし、これはあくまで一例です。愛猫に最適なワクチンの種類と接種時期については、必ずかかりつけの獣医師と相談して、個別のワクチネーションプログラムを立ててもらいましょう。

愛猫のワクチン予防接種は長生きにもつながる

猫のワクチン接種には、まれに副作用のリスクもあります。アナフィラキシーショックなどのアレルギー反応のほか、注射部位にしこり(接種部位肉芽腫)ができることが報告されています。これは悪性の腫瘍である可能性もあるため、リスクを避けるために近年では足先や尻尾、お腹の横側など、万が一の際に切除しやすい部位への接種が推奨されています。

また、WSAVAのガイドラインが提言するように「ワクチンの過剰接種を避ける」という観点から、抗体検査という選択肢もあります。これは、体内に十分な免疫が残っているか血液検査で確認する方法です。抗体が陽性であればその年の追加接種は不要と判断できます。ただし、現在この抗体検査が有効とされるのはコアワクチンのうち猫汎白血球減少症(FPV)のみなので注意が必要です。

副作用のリスクを理解し、獣医師としっかり相談した上で適切にワクチンを接種することは、多くの危険な感染症から愛猫を守り、健康で長生きしてもらうための飼い主の重要な責任です。

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