シニア期(高齢期)に入った愛犬との暮らしは、元気いっぱいだった子犬の頃とはまた違ったお世話が必要になり、戸惑うことも多いですよね。
「今まで当たり前にできていたことが、できなくなる」。これは飼い主さんにとってはもちろん、愛犬自身も戸惑い、不安を感じてしまうことがあります。しかし、飼い主さんが愛犬の老化のサインにいち早く気づき、シニア犬との暮らし方に切り替えることで、愛犬の心と体の負担を減らし、穏やかで快適な毎日をサポートすることができます。
この記事では、老犬(シニア犬)の飼い方について、食事・散歩・トイレといった日常のケアから、気をつけたい病気、そして快適な生活を支えるおすすめのアイテムまで、幅広く解説します。
老犬っていつから?
犬が「老犬(シニア犬)」と呼ばれるようになる年齢は、犬の体の大きさによって異なります。一般的に、体の小さい犬ほど寿命が長く、老化のスピードも緩やかです。まずは、ご自身の愛犬がどのステージにいるのか、下の表で確認してみましょう。
犬のサイズ(体重) | シニア期に入る年齢の目安 |
---|---|
小型犬(9kg未満) | 9~13歳 |
中型犬(9~23kg未満) | 9~13歳 |
大型犬(23~54kg未満) | 7~10歳 |
超大型犬(54kg以上) | 6~9歳 |
一般的に、犬の寿命は体重と体高に反比例するとされ、体が小さい犬ほど長生きする傾向にあります。そのため、大型犬は小型犬よりも早くシニア期を迎えます。
表の年齢に幅があるのは、同じ犬種でも個体差(性別、体格など)があるためです。また、これまでの生活環境、栄養状態、ストレスの有無、病歴なども老化のスピードに影響を与えます。若い頃から健康的な生活を送れていないと、老化が早く進むことがあるため、日頃のケアが重要です。
年齢だけでなく、「寝ている時間が増えた」「毛ヅヤが悪くなった」「散歩に行きたがらない」といった老化のサインにも注意を払い、愛犬の変化に合わせたお世話を始めましょう。
老犬の食事のケアはどうすればいい?
シニア用・高齢犬用フードへの切り替え
関節や免疫力をサポートする栄養バランス
消化に優しく、添加物の少ないフードを選ぶ
フードボウルの高さを調整し、首への負担を減らす
老犬の食事ケアは、健康寿命を延ばすために非常に重要です。年齢とともに基礎代謝や消化機能が低下するため、成犬時と同じ食事では肥満や内臓への負担につながる可能性があります。
シニア用フードへの切り替え
愛犬の外見が若々しく見えても、シニア期に入ったらシニア用(高齢犬用)フードへの切り替えを検討しましょう。シニア用フードは、低カロリー・低脂肪でありながら、関節の健康をサポートするグルコサミンやコンドロイチン、免疫力を維持する抗酸化成分など、老犬に必要な栄養素がバランス良く配合されています。
また、年齢を重ねると消化器官も衰えてきます。フードの品質を保つための合成添加物は、老犬の体には負担となることがあるため、なるべく無添加で消化に良い、高品質なフードを選んであげることが大切です。
食べやすい環境づくり
筋力が低下すると、低い位置で食事をする姿勢が首や足腰への負担になります。台や専用の食器台を使い、頭と背中がなるべく水平になる高さにフードボウルを設置してあげましょう。これにより、首への負担が減り、飲み込み(嚥下)もスムーズになります。誤嚥の防止にもつながりますよ。
食欲が落ちてきた場合は、ただ食事を残すのではなく、栄養を摂ってもらうための工夫が必要です。フードをぬるま湯でふやかして香りを立たせたり、嗜好性の高いウェットフードをトッピングしたり、飼い主さんの手から直接与えたりして、食欲を刺激してあげてください。
老犬の散歩はどうすればいい?
筋力維持と寝たきり予防
五感を使い、脳への刺激を与える(認知症ケア)
気分転換とストレス発散
歩けなくてもカートに乗せて外の空気に触れさせる
「年を取ったから」と散歩を控えるのは、かえって老化を早めてしまう可能性があります。獣医師から運動を制限されていない限り、老犬にとって散歩は心と体の健康を維持するために欠かせません。
散歩がもたらす良い効果
老犬の散歩には、足腰の筋力を維持し、寝たきりを予防するという身体的なメリットがあります。それだけでなく、外の匂いを嗅いだり、音を聞いたり、景色を見たりすることは五感を使い、脳に良い刺激を与えます。これは、精神的な老化を防ぎ、認知症の予防・ケアにもつながると言われています。
老犬の散歩では、距離を歩くことよりも、外に出て刺激を受けること自体が大切です。体調に合わせて散歩の距離は短くしても構いませんが、時間は若い頃と同じくらい確保し、ゆっくりと外の世界を楽しませてあげましょう。
無理のない散歩の工夫
自力で歩くのが難しくなってきた場合は、ペット用のカートやスリングを活用するのも良い方法です。歩けなくても、外の空気に触れて気分転換させてあげることは、愛犬にとって大きな喜びになります。愛犬のペースに合わせ、無理のない範囲で散歩を続けてあげてください。
老犬のトイレはどうすればいい?
トイレの失敗を叱らない
トイレの場所を増やし、寝床の近くにも設置する
滑り止めマットや防水シートを活用する
ペット用のおむつを着用させる
犬も人間と同じように、年齢を重ねると筋力の低下や感覚の衰えにより、おしっこを我慢できなくなったり、トイレの場所まで間に合わなかったりすることが増えます。トイレの失敗は老化現象の一つであり、決して愛犬を叱らないであげてください。
具体的なトイレの失敗対策
粗相が増えてきたら、まずは愛犬が生活する空間の環境を見直しましょう。寝ている間に漏らしてしまうこともあるため、寝床やその周りに防水シートやペットシーツを敷いておくと、掃除の手間が省け、衛生的に保てます。また、トイレの場所を複数箇所に増やしたり、滑りにくいマットを敷いてトイレまでの動線を確保したりするのも効果的です。
頻繁に失敗するようになったり、夜間の粗相が心配な場合は、ペット用のおむつを着用させるのも一つの方法です。これは将来、寝たきりになった際の介護の練習にもなります。ただし、おむつは皮膚がかぶれないよう、こまめに交換して清潔を保つことが大切です。
老犬のグルーミング、どうすればいい?
ブラッシングで血行促進と皮膚病予防
耳掃除、爪切りで清潔を保つ
シャンプーは体への負担が少ない方法で
動物病院でのグルーミングも検討する
グルーミングは、体を清潔に保つだけでなく、飼い主が愛犬の体の変化に気づく絶好の機会です。老犬にとっては、体への負担も考慮しながら行う必要があります。
毎日のブラッシングは、皮膚の血行を促進し、新陳代謝を高める効果が期待できます。マッサージのように優しく行い、皮膚にしこりや炎症がないかチェックしましょう。
週に1回程度はイヤークリーナーで耳掃除をし、爪も伸びすぎて歩行の妨げにならないよう、定期的にカットします。シャンプーは体力を消耗するため、愛犬が自力で立っていられるなら月に1回程度を目安に。難しい場合は、蒸しタオルで体を拭いたり、汚れた部分だけを洗う部分洗いを取り入れたりするのがおすすめです。
自宅でのケアが難しい場合や、持病があって心配な場合は、グルーミングを行う動物病院に相談するのも良いでしょう。万が一グルーミング中に体調が悪くなっても、すぐに獣医師に診てもらえるので安心です。
老犬がかかりやすい病気は?
白内障
認知症
歯周病
心臓病(心不全など)
腎臓病(慢性腎不全など)
膀胱・尿路結石
糖尿病
甲状腺機能低下症
関節の病気(変形性関節症など)
ガン(悪性腫瘍)
子宮蓄膿症(避妊していないメス)
前立腺肥大(去勢していないオス)
老犬になると免疫力が低下し、さまざまな病気にかかりやすくなります。日頃から愛犬の様子をよく観察し、早期発見・早期治療につなげることが何よりも大切です。ここでは代表的な病気を紹介します。
白内障
目の水晶体が白く濁り、視力が低下する病気です。初期は目立った症状は見られませんが、進行するにつれて物にぶつかったり、つまずいたりするようになります。黒目が白っぽく見えてきたら、獣医師に相談しましょう。
認知症
脳の萎縮などが原因とされ、今までできていたことができなくなる病気です。目的もなくウロウロ徘徊する、狭い場所に入りたがる、夜鳴きをするなどの症状が見られます。進行を遅らせるための投薬やサプリメント、食事療法などがありますが、根本的な治療法はまだありません。
歯周病
歯ぐきに炎症が起き、悪化すると歯が抜けたり、細菌が全身に回って他の病気を引き起こしたりすることもある怖い病気です。日頃からの歯磨きケアで歯垢の蓄積を防ぎ、口臭や歯ぐきの腫れがないかチェックしてあげてください。
心不全
心不全とは特定の病名ではなく、心臓の機能が低下し、全身に必要な血液を送り出せなくなった状態のことです。進行すると、乾いた咳が頻繁に出る、疲れやすい、呼吸が苦しそう、などの症状が見られます。
慢性腎不全
腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。多飲多尿(水をたくさん飲み、おしっこをたくさんする)、食欲不振、体重減少、嘔吐などの症状が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
膀胱・尿路結石
膀胱や尿道に結石ができ、頻尿や血尿、排尿痛などの症状を引き起こす病気です。排尿時に痛がったり、尿が出にくそうにしていたりしたら注意が必要です。
糖尿病
インスリンの働きが悪くなることで血糖値が高くなる病気です。「水を飲む量とおしっこの量が異常に増える」「たくさん食べるのに痩せていく」といった症状が特徴です。進行すると白内障などを合併することもあります。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が減少することで、体の代謝が低下する病気です。「元気がない」「寒がる」「脱毛」「体重増加」などの症状が見られます。
変形性関節症
関節の軟骨がすり減って変形し、痛みやこわばりを起こす病気です。歩き方がぎこちない、足を引きずる、散歩や階段を嫌がる、といったサインが見られたら、この病気の可能性があります。
ガン
悪性腫瘍とも呼ばれ、体の様々な場所に発生します。早期発見が非常に重要ですので、体を撫でる際にしこりがないか、普段と変わった様子がないかを常にチェックする習慣をつけましょう。
子宮蓄膿症
避妊手術をしていないメス犬に起こる病気で、子宮内に細菌が感染し膿が溜まります。陰部から膿が出たり、お腹が張ったり、元気や食欲がなくなったりします。命に関わる緊急性の高い病気です。
前立腺肥大
去勢手術をしていないオスの老犬によく見られる病気です。肥大した前立腺が腸や尿道を圧迫し、「血尿」「排尿困難」「便秘」などの症状を引き起こします。去勢手術で予防が可能です。
老犬との暮らしを穏やかに
子犬の愛らしさはメディアでも頻繁に取り上げられますが、シニア期に入った犬の、穏やかで深みのある魅力もまた格別です。長い時間を共に過ごしてきた愛犬が、最期まで幸せで穏やかな時間を過ごせるよう、飼い主として精一杯サポートしてあげたいですね。
老犬との暮らしは、変化の連続です。昨日できたことが今日できなくなるかもしれません。しかし、その一つ一つの変化に寄り添い、工夫を重ねていくことで、愛犬との絆はさらに深まっていくはずです。
また、老犬がかかりやすい病気の多くは、定期的な健康診断や、飼い主さんの日頃の観察による「ちょっとした変化」への気づきで早期発見が可能です。愛犬の様子をよく見て、愛情のこもったケアを続けてあげてください。