家庭内にタバコや灰皿などがあると、好奇心旺盛な愛犬が誤飲してしまう恐れがあります。タバコの誤飲は、時に命に関わる深刻なニコチン中毒を引き起こすため、飼い主として正しい知識を持つことが重要です。実際に、犬がタバコを誤飲し、緊急手術が必要になったというケースも少なくありません。
タバコには、ニコチンをはじめとする多くの有害物質が含まれており、愛犬の健康に深刻なダメージを与えます。飼い主さんが喫煙者でなくても、散歩中に道端に落ちている吸い殻を食べてしまう事故も多発しています。
この記事では、万が一愛犬がタバコを食べてしまった際の緊急対処法から、危険な症状、予防策までを獣医師の監修のもと詳しく解説します。
犬がタバコを食べてしまったときの対処法
愛犬がタバコを誤飲したと気づいたら、パニックにならず、まずは落ち着いて行動することが大切です。ここでは、飼い主さんがすぐに取るべき2つの重要な対処法を解説します。
水を絶対に飲ませない
犬がタバコを食べてしまった際に絶対にやってはいけないのが、水を飲ませることです。
異物や毒物を誤飲した場合、水を飲ませて吐かせるのが一般的な応急処置と思われがちですが、タバコの場合は例外です。タバコに含まれるニコチンは水に溶けやすい性質を持っています。
そのため、水を飲ませると胃や腸でニコチンが急速に溶け出し、体内への吸収を早めてしまい、かえって症状を悪化させる危険性があります。自己判断で吐かせようとせず、まずは現状を維持してください。
すぐに動物病院を受診する
タバコを誤飲した場合、症状が出ているかどうかにかかわらず、必ず動物病院を受診してください。たとえ少量であっても、犬にとっては非常に危険です。誤飲から時間が経てば経つほど、ニコチンの吸収が進み、重篤な症状を引き起こすリスクが高まります。
動物病院では、誤飲直後であれば催吐(さいと)処置などで胃の中のタバコを吐き出させることができます。受診の際は、「いつ、何を、どのくらいの量食べたか」を獣医師に正確に伝えられるようにしておきましょう。もしタバコの箱が残っていれば持参すると、ニコチン量の把握に役立ちます。
夜間や休診日の場合は、ためらわずに救急対応している動物病院に連絡し、指示を仰いでください。
犬がタバコを食べたらどんな症状がでる?
犬がタバコを誤飲すると、ニコチン中毒によって様々な症状が現れます。症状は誤飲後15分~1時間以内に現れることが多く、迅速な対応が求められます。
- 嘔吐、下痢
- よだれを大量に流す(流涎)
- 興奮、震え、けいれん
- 心拍数の異常(頻脈または徐脈)
- 血圧の上昇
- 呼吸が速くなる、または呼吸困難
- ぐったりする、虚脱
- 最悪の場合、死に至ることもあります
これらの症状は時間の経過とともに重篤化する傾向があるため、初期症状である嘔吐や下痢が見られた時点で、すぐに動物病院へ向かうことが重要です。
特に注意が必要なのは、タバコの吸い殻を浸した水(灰皿の水など)を飲んでしまった場合です。ニコチンが凝縮された液体を飲むと、固形のタバコを食べるよりもはるかに速く、約15分ほどで危険な状態に陥ることがあります。
ニコチン中毒について
ニコチン中毒とは、タバコや加熱式タバコ、ニコチンガムなどに含まれる有害物質「ニコチン」を過剰に摂取することで引き起こされる中毒症状です。ニコチンは中枢神経や末梢神経に強く作用する毒性の高い化学物質で、犬が摂取すると神経系の異常をはじめ、全身に深刻な影響を及ぼします。
中毒症状は通常、摂取後15分〜45分以内に現れ始めますが、タバコが胃から腸へ移動すると吸収がさらに加速し、症状が急激に悪化することがあります。
致死量ってどのくらい?
犬におけるニコチンの致死量は、体重1kgあたり約10mgとされていますが、個体差も大きく一概には言えません。人間の子どもの場合、1mg/kgでも中毒症状が起こることから、犬にとっても非常に毒性が高いことがわかります。
一般的な紙巻きタバコ1本には約10mg~30mgのニコチンが含まれています。銘柄によってニコチン含有量は異なりますが、どのタバコであっても犬にとっては危険です。
あくまで目安ですが、子犬なら1本、小型犬なら2本程度でも致死量に達する可能性があると言われています。散歩中に落ちている吸い殻は、どの銘柄でどれくらいのニコチンが残っているか判断できません。たとえ少量でも、愛犬が口にした時点で命の危険があると認識し、タバコには絶対に近づけないようにしましょう。
犬がタバコを食べても症状が出ないことも?
愛犬がタバコを誤飲した後、すぐに嘔吐してタバコをすべて吐き出せた場合、幸運にも症状が出ないか、軽症で済むことがあります。
しかし、症状が出ていないからといって安心するのは非常に危険です。目に見える症状がなくても、体内にニコチンが吸収されている可能性は十分にあります。時間が経ってから症状が急変することもあるため、自己判断は絶対にせず、タバコを食べた可能性がある場合は、必ず動物病院で診察を受けてください。
獣医師による適切な診断と処置が、愛犬の命を救うことに繋がります。
犬のタバコの誤飲は散歩中も要注意!
タバコの誤飲事故は、飼い主さんの目の届かない室内だけでなく、毎日の散歩中にも多く発生しています。道端に捨てられた吸い殻は、犬にとって興味を引く対象になりがちです。
もし誤飲してしまった場合、ニコチンが小腸に達して大量に吸収される前に吐き出させることが重要です。遅くとも30分~1時間以内には動物病院へ連れて行きましょう。
散歩中は拾い食いをさせないよう、リードを短めに持ち、愛犬の様子から目を離さないように注意してください。特に吸い殻が落ちていそうな植え込みや駐車場の隅などは注意深く歩きましょう。
vet所属獣医師先生
犬がタバコを誤飲しないために近づけないこと
愛犬をタバコの危険から守るために最も重要なのは、誤飲事故を未然に防ぐことです。飼い主さんが少し注意するだけで、リスクは大幅に減らせます。
まずは、愛犬の生活空間にタバコが存在する状況を作らないことを徹底しましょう。具体的には、以下の対策を心がけてください。
- タバコやライター、灰皿は犬の手の届かない場所に保管する。
- 吸い殻はすぐに蓋付きのゴミ箱に捨てる。
- 灰皿に水を溜めない。(ニコチンが溶け出した水は非常に危険です)
- 散歩中は、タバコの吸い殻が落ちていそうな場所を避ける。
- 拾い食いの癖がある場合は、トレーニングを行うか、必要に応じて口輪の装着も検討する。
どんなに気をつけていても、一瞬の隙に事故は起こる可能性があります。日頃から予防策を徹底し、愛犬をタバコの誤飲から守ってあげましょう。