【獣医師が選ぶ】犬がかかりやすい病気4選|知っておきたい症状と予防法

飼育環境の快適化や獣医療の進歩により、犬の平均寿命は延び、長生きする子が増えています。

愛犬と一日でも長く一緒に過ごせるのは飼い主さんにとって大きな喜びですが、年齢を重ねるとともに、様々な病気にかかるリスクも高まることを理解しておく必要があります。

この記事では、多くの犬種で注意したい「犬がかかりやすい病気」4選について、具体的な症状や原因、治療法、そして家庭でできる予防・対策を詳しく解説します。

犬がかかりやすい病気とは

犬がかかりやすい病気

椎間板ヘルニア
膵炎(すいえん)
歯周病
ガン(悪性腫瘍)

犬種や年齢、生活環境によってかかりやすい病気は異なりますが、特に注意したい代表的な病気として「椎間板ヘルニア」「膵炎」「歯周病」「ガン」が挙げられます。

これら犬がかかりやすい病気の中には、重症化すると命に関わるものや、遺伝が関係する疾患もありますが、多くは日々の生活習慣を見直すことで発症リスクを減らしたり、早期発見につなげたりすることが可能です。

犬がかかりやすい病気①ヘルニア

治療法

内科治療(安静、投薬など)
外科治療(手術)

対策

体重管理(肥満対策)
激しい運動や段差の上り下りを避ける
床を滑りにくくする

椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間でクッションの役割を果たす椎間板が変性し、脊髄を圧迫してしまう病気です。特にダックスフンド、ビーグル、シーズー、コーギーといった胴長短足の犬種で発症しやすい傾向があります。

ヘルニアとは、本来あるべき場所から組織や臓器が飛び出してしまう状態の総称で、犬では椎間板ヘルニアのほか、鼠径(そけい)ヘルニア、臍(さい)ヘルニアなど様々な種類が見られます。

激しい運動やジャンプ、加齢による変化で椎間板に過度な負担がかかると、中にある髄核という組織が飛び出し、脊髄や神経を圧迫します。その結果、「強い痛み」や「足の麻痺」「排泄のコントロールができない」といった神経症状を引き起こします。

治療法

犬のヘルニアの主な治療法は、症状のグレードに応じて「内科治療」と「外科治療」が選択されます。

内科治療は、症状が比較的軽い場合に行われます。ケージレストと呼ばれる、狭いケージの中で動きを制限して安静を保つことが基本です。椎間板が安定するまで4~6週間ほど安静にし、ステロイドや非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)、レーザー治療などを併用して炎症と痛みを和らげます。

外科治療は、麻痺が重度の場合や内科治療で改善が見られない場合に行われます。原因となっている椎間板物質を外科的に取り除き、神経への圧迫を解除する手術です。

対策

椎間板ヘルニアの最も重要な対策は、腰への負担を減らすことです。普段から肥満にならないよう体重を管理し、ソファへの飛び乗りや階段の急な上り下りといった激しい運動は避けましょう。フローリングなどの滑りやすい床は足腰に負担をかけるため、滑り止めのマットやカーペットを敷くのも非常に効果的です。

vet監修獣医師先生

椎間板ヘルニアには2つの種類があり、ハンセンⅠ型、ハンセンⅡ型と呼ばれます。ハンセンⅠ型は若い犬に見られ、急激な痛みを伴うことが特徴です。また、遺伝が大きな原因となっています。ハンセンⅡ型は、高齢犬に多く、慢性的な痛みを伴うことが特徴です。

犬がかかりやすい病気②膵炎

治療法

輸液療法
鎮痛剤・抗生剤などの投与
食事療法

対策

低脂肪でバランスの取れた食生活
おやつの与えすぎに注意

膵炎は、食べ物の消化を助ける膵液が何らかの原因で活性化し、膵臓自体を消化してしまうことで強い炎症が起こる病気です。犬がかかりやすい病気の中でも特に激しい腹痛を伴い、中・高齢のメス犬に発症が多いといわれています。

高脂肪食の摂取、肥満、他の病気(クッシング症候群や甲状腺機能低下症など)、薬の副作用などが原因で発症し、「激しい嘔吐」「下痢」「食欲不振」「腹痛」「発熱」といった症状が見られます。腹痛がひどい場合、お尻を高く上げて前足を伸ばす「祈りのポーズ」をすることがあります。

治療法

膵炎の治療は、膵臓を休ませて炎症を抑えることが基本です。脱水や電解質異常を改善するための「輸液療法」が中心となり、痛みを和らげる鎮痛剤、吐き気止め、細菌の二次感染を防ぐ抗生剤などを投与します。

症状が重い場合は、膵臓の酵素の活性化を抑える薬を使いながら、数日間の絶食を行うこともあります。回復してきたら、脂肪分を極端に制限した低脂肪・低たんぱくの療法食を少量から与え始めます。

対策

膵炎の最も効果的な対策は、食生活の管理です。人間の食べ物や揚げ物、バター、動物性の脂など、脂肪分の多い食品は絶対に与えないようにしましょう。日頃から低脂肪で栄養バランスの取れたドッグフードを選び、おやつの与えすぎにも注意が必要です。膵炎は一度発症すると再発しやすいため、日々の食事管理が重要になります。

vet監修獣医師先生

膵炎の症状の特徴として、祈祷の姿勢(お祈りのポーズ)をすることが特徴的です。

犬がかかりやすい病気③歯周病

治療法

全身麻酔下での歯石除去(スケーリング)
抜歯

対策

毎日の歯磨き
デンタルケアグッズの活用

歯周病は、歯垢の中の細菌が原因で歯肉(歯ぐき)や歯を支える組織に炎症が起こる病気で、歯肉の炎症である「歯肉炎」と、それが進行した「歯周炎」の総称です。3歳以上の成犬の約8割が罹患しているともいわれ、犬がかかりやすい病気の中でも最も身近なものと言えるでしょう。

特に小型犬は顎が小さく歯が密集しているため、歯周病が起こりやすく重症化しやすい傾向があります。日々のデンタルケアを怠ると、歯の表面に細菌の塊である歯垢が付着し、2~3日で唾液中のカルシウムと結合して硬い歯石に変わります。歯垢は歯磨きで除去できますが、歯石になってしまうと自宅でのケアでは除去できません。

歯周病が進行すると、口臭がひどくなるだけでなく、歯がぐらついて抜け落ちたり、顎の骨が溶けて骨折したりすることもあります。さらに、歯周病菌が血管を通って全身に回り、心臓病や腎臓病といった命に関わる病気を引き起こすこともあります。

治療法

歯周病の治療は、全身麻酔をかけて歯周病の原因となる歯石を専用の器具で除去(スケーリング)するのが基本です。歯周病が進行し、歯の根元までダメージが及んでいる場合は、残念ながら抜歯が必要になることもあります。

対策

歯周病を予防するために最も大切なのは、毎日の歯磨きで歯垢を溜めないことです。口を触られるのを嫌がる犬も多いため、子犬の頃から歯磨きの習慣をつけ、少しずつ慣れさせることが理想です。歯ブラシが難しい場合は、歯磨きシートやデンタルガム、おもちゃなどを活用するのも良いでしょう。

vet監修獣医師先生

歯石は動物病院で除去ができます。歯石除去は施術の際、安全を考慮し麻酔をすることがほとんどです。麻酔はペットに負担がかかり、リスクも伴います。そうならないように日々のデンタルケアで歯石を作らないようにしましょう。

犬がかかりやすい病気④ガン

治療法

手術療法
化学・薬物療法(抗がん剤)
放射線治療
免疫療法

対策

定期的な健康診断
日々のボディチェック
適度な運動とストレスのない生活

ガン(悪性腫瘍)は、体の細胞が異常に増殖することで発生する病気で、人間と同じく現在の犬の死因第1位となっています。特にシニア期に入ると発症リスクが高まるため、高齢の犬と暮らす飼い主さんにとっては最も注意したい病気の一つです。

原因は完全には解明されていませんが、加齢、遺伝的要因、ホルモン、紫外線、化学物質、ウイルス、ストレスなどが複雑に関係していると考えられています。発生する場所によって症状は様々ですが、「体にしこりができる」「リンパ節が腫れる」「食欲や元気がなくなる」「体重が急に減る」「原因不明の出血」などがサインとして見られます。

治療法

犬のガンの主な治療法は、ガンの種類、進行度、発生場所、犬の年齢や健康状態を総合的に判断し、「手術療法」「化学・薬物療法」「放射線治療」「免疫療法」の4つを単独または組み合わせて行います。

手術療法

ガン細胞を外科的に切除する方法で、最も根治が期待できる治療法です。転移のない固形のガンに対して第一に選択されますが、発生場所によっては機能や外見を損なう可能性があります。

化学・薬物療法

抗がん剤を用いて、全身に広がったガン細胞の増殖を抑制する方法です。手術が難しい場合や、手術後の再発・転移予防のために行われます。副作用として、消化器症状や骨髄抑制(白血球の減少など)が見られることがあります。

放射線治療

高エネルギーの放射線をガン細胞に照射して破壊する治療法です。手術が困難な脳や鼻腔内の腫瘍などに有効ですが、治療には全身麻酔が必要で、実施できる施設が限られます。

免疫療法

犬自身が持つ免疫の力を高めてガン細胞を攻撃させる治療法です。他の治療法と組み合わせて、QOL(生活の質)の維持や再発防止を目的として行われることがあります。

代替療法

上記の三大治療法を補完する目的で、マッサージや鍼灸、ハーブ、サプリメントなどが用いられることもあります。これらはQOLの向上を目的として選択されることがあります。

対策

ガンの対策で最も重要なのは、早期発見・早期治療です。特にシニア期(7歳以上)に入ったら、年に1~2回の定期的な健康診断を欠かさないようにしましょう。血液検査やレントゲン検査、超音波検査などで体の中の変化をチェックすることが大切です。

また、毎日のスキンシップを兼ねて体を撫で、しこりや腫れがないかを確認する習慣をつけましょう。適度な運動で免疫力を高め、ストレスの少ない生活環境を整えてあげることも、ガンへの対策につながります。

vet監修獣医師先生

犬の悪性腫瘍は、皮膚がんや乳腺のがんが多くみられます。皮膚表面にできるがんは日々のコミュニケーションで見つけることができるかもしれません。早期発見・早期治療のために日々のコミュニケーションを大切にしましょう。

早期発見・治療が大切!

今回ご紹介した病気に限らず、あらゆる病気は早期発見と早期治療が愛犬の健康寿命を延ばす鍵となります。

言葉を話せない愛犬の異変にいち早く気づけるのは、毎日一緒にいる飼い主さんだけです。「食欲がない」「元気がない」「歩き方がおかしい」など、普段の様子と少しでも違うと感じたら、迷わず動物病院に相談するようにしてください。日々の観察と定期的な健康診断で、愛犬との健やかで幸せな時間を守っていきましょう。

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