愛犬が突然、体を震わせて痙攣(けいれん)を起こしたら、飼い主さんは誰でも驚き、パニックになってしまいますよね。
犬の痙攣は、てんかんや中毒、脳の病気など、命に関わる重大なサインである可能性もあります。いざという時に冷静に対応できるよう、痙攣について正しい知識を持っておくことが大切です。
この記事では、犬の痙攣でみられる症状、考えられる原因、そしてご家庭でできる対処法や病院での検査について詳しく解説します。
犬の痙攣、どんな症状?
犬の痙攣発作と一言でいっても、その症状は様々です。代表的な症状を知っておくことで、愛犬の異変にいち早く気づくことができます。
- 全身を硬直させてガクガクと震える(全般発作)
- 手足や顔など体の一部だけがピクピクと震える(部分発作)
- 意識を失い、呼びかけに反応しなくなる
- 大量のよだれを流す
- 口をパクパクさせる、歯を食いしばる
- 嘔吐や失禁・脱糞をしてしまう
痙攣発作は、数秒から数分でおさまることがほとんどですが、短い発作を何度も繰り返す場合もあります。
体が固まったように手足をピンと伸ばす「強直性痙攣」や、手足をリズミカルに曲げ伸ばしする「間代性痙攣」などが見られます。多くの場合、これらの症状が混在して起こります。
犬が痙攣を起こす原因は?
犬が痙攣を起こす原因は多岐にわたります。脳そのものに原因がある場合と、脳以外の体の異常によって引き起こされる場合があります。
- てんかん
- 脳の病気(脳炎、脳腫瘍など)
- 感染症(犬クリプトコッカス症、ジステンパーウイルス感染症など)
- 肝臓の病気(門脈シャントなど)
- 中毒
- 代謝性の異常(低血糖、低カルシウム血症など)
1:てんかん
犬の痙攣の原因として最も多くみられるのが「てんかん」です。てんかんは、脳の神経細胞が異常に興奮することで発作が起こる病気です。
MRIなどの検査をしても脳に明らかな異常が見つからない「特発性てんかん」と、脳腫瘍や脳炎、過去の頭部の外傷などが原因で起こる「症候性てんかん」に分けられます。特に特発性てんかんは遺伝的要因が関わっていると考えられています。
2:犬クリプトコッカス症
犬クリプトコッカス症は、ハトの糞などに含まれるクリプトコッカスという真菌(カビ)を吸い込むことで感染します。
この真菌が鼻から脳や脊髄などの中枢神経にまで達すると、神経に異常をきたし、痙攣や麻痺、旋回運動などの神経症状を引き起こします。
クリプトコッカスは人にも感染する人獣共通感染症のため、飼育環境の衛生管理が重要です。
vet監修獣医師先生
3:ジステンパーウイルス感染症
ジステンパーウイルスへの感染が原因で起こる病気で、特にワクチン未接種の子犬に多く見られます。
ウイルスが中枢神経系にまで達すると、痙攣(ジステンパーミオクロヌスと呼ばれる特徴的なもの)や麻痺などの重い神経症状を引き起こします。
致死率が非常に高く、ワクチン接種による予防が最も重要です。
4:門脈シャント
門脈シャントは、本来肝臓で解毒されるはずのアンモニアなどの有害物質が、異常な血管(シャント血管)を通って全身に流れてしまう病気です。
有害物質が脳に達することで「肝性脳症」という状態になり、痙攣、ふらつき、異常行動などの神経症状が現れます。
先天性のものと後天性のものがあります。
5:中毒
犬にとって毒となるものを誤って口にしてしまうことで、中毒症状の一つとして痙攣が起こることがあります。
原因となる物質は、「チョコレート」「タマネギ」「キシリトールガム」などの食べ物から、「殺虫剤」「除草剤」「不凍液(エチレングリコール)」など多岐にわたります。犬の生活スペースに危険なものを置かないよう注意が必要です。
痙攣を起こしやすい犬種がいる?
痙攣はどの犬種でも起こる可能性がありますが、原因となる「特発性てんかん」や「先天性の門脈シャント」は、特定の犬種で発症しやすい傾向が報告されています。
てんかん全体の有病率は0.6~0.75%ほどで、多くは1歳から3歳頃の若い時期に初めて発作を起こします。
てんかんを発症しやすいとされる犬種
- ゴールデン・レトリーバー
- ラブラドール・レトリーバー
- ビーグル
- シェットランド・シープドッグ
- ジャーマン・シェパード
- ダックスフント
- プードル
- ボーダー・コリー
- シベリアン・ハスキー
先天性の門脈シャントを発症しやすいとされる犬種
- ヨークシャー・テリア
- マルチーズ
- ミニチュア・シュナウザー
- トイ・プードル
- シー・ズー
- パグ
愛犬が痙攣を発症してしまった場合の対処は?
愛犬が目の前で痙攣を起こしたら、まずは飼い主さんが落ち着くことが重要です。慌てず、安全を確保しながら様子を観察しましょう。
発作が起きている最中の対処法
発作中は、まず愛犬の安全を確保することが最優先です。周りにある家具や硬いものを遠ざけ、頭をぶつけてケガをしないように守ってあげましょう。
無理に抱きしめたり、体を揺さぶったり、口に物を入れたりするのは危険なので絶対にやめてください。意識がなく、無意識に噛まれてしまう可能性があります。
可能であれば、スマートフォンの動画機能で発作の様子を撮影しておくと、後の診断に非常に役立ちます。「いつから始まったか」「何分続いたか」「どんな症状だったか」を記録しておきましょう。
発作がおさまった後の対処法
ほとんどの発作は数分以内におさまります。発作がおさまったら、愛犬を優しくなでて安心させ、意識がはっきりするまで静かに見守ってください。
そして、発作が初めての場合や、5分以上続く場合、短い発作を繰り返す場合は、すぐに動物病院へ連絡し、指示を仰ぎましょう。
原因別の治療法
動物病院では、原因に応じた治療が行われます。
- てんかん:抗てんかん薬を投与し、発作の回数を減らしたり、症状を軽くしたりすることを目指します。完治は難しいことが多いですが、薬でコントロールしながら生活できます。
- 犬クリプトコッカス症:抗真菌薬の投与が中心となります。治療は長期間に及ぶことがあります。
- ジステンパーウイルス感染症:ウイルス自体に有効な薬はないため、二次感染を防ぐための抗生物質の投与や、症状を和らげる対症療法が行われます。
- 門脈シャント:内科的な治療(食事療法や投薬)と、外科手術でシャント血管を閉じる方法があります。
- 中毒:原因物質の特定を急ぎ、催吐処置や点滴、解毒剤の投与などが行われます。何を食べたかわかる場合は、そのパッケージなども持参しましょう。
痙攣を起こした場合どんな検査が必要?
痙攣の原因を正確に突き止めるため、動物病院では以下のような検査を組み合わせて行います。
- 問診
- 身体検査・神経学的検査
- 血液検査・尿検査
- 画像検査(レントゲン、超音波、CT、MRI)
検査1:問診
動物病院に到着した時には発作がおさまっていることが多いため、飼い主さんからの情報が非常に重要になります。撮影した動画を見せたり、発作の頻度、持続時間、発作前後の様子などをできるだけ詳しく伝えましょう。
検査2:神経学的検査
獣医師が犬の意識状態、歩き方、姿勢、反射などをチェックし、脳や神経のどこに異常があるのかを評価します。この検査は、痙攣の原因が脳にあるのか、それ以外にあるのかを判断する上で重要です。
検査3:血液検査
血液検査では、低血糖や低カルシウム血症、肝臓や腎臓の異常、炎症反応の有無などを調べることができます。これにより、脳以外の代謝性疾患が原因で痙攣が起きていないかを確認します。
検査4:画像検査
脳腫瘍や脳炎、水頭症、門脈シャントなどが疑われる場合には、より詳細な画像検査が必要になります。レントゲン検査や超音波(エコー)検査のほか、脳の状態を詳しく調べるためにはCT検査やMRI検査が行われます。
愛犬が痙攣を起こしたときは焦らず病院へ
愛犬が痙攣を起こす姿を見るのは、飼い主にとって非常につらく、不安なものです。しかし、痙攣は原因を特定し、適切な治療を行うことが何よりも重要です。
自己判断で様子を見るのではなく、まずはかかりつけの動物病院に連絡し、指示を仰いでください。その際、愛犬の様子を動画で撮影したり、症状をメモしておいたりすることが、的確な診断と治療につながります。
特発性てんかんのように、長く付き合っていく必要のある病気もありますが、適切な治療で発作をコントロールし、穏やかな生活を送ることは十分に可能です。愛犬の異変に気づいたら、ためらわずに獣医師に相談しましょう。