【獣医師監修】犬のしこり、触ってわかる危険なサインは?良性・悪性の見分け方と対処法

愛犬の体を撫でている時、背中やお腹、足の付け根などに「しこり」を見つけて、不安になった経験はありませんか?

特にシニア犬(老犬)になると、良性のイボなどが増えることもありますが、中には悪性腫瘍(がん)のように、命に関わる危険な病気が隠れている可能性もゼロではありません。愛犬のしこりに気づいたら、まずは落ち着いて状態を確認し、早めに動物病院で獣医師に相談することが何よりも大切です。

この記事では、犬のしこりの主な症状や考えられる原因、良性・悪性の見分け方のポイント、動物病院で行われる検査や治療法について、詳しく解説します。

犬のしこり、どんな症状?

犬のしこりの症状は、その原因によって様々です。体を触って初めて気づくような小さなものから、目で見てわかるほど大きく腫れ上がるものまであります。

犬のしこりの主な症状には、以下のような特徴が見られます。

  • 形状や硬さ:イボのように皮膚が盛り上がっている、皮膚の下にコリコリとした硬い塊がある、ブヨブヨと柔らかく弾力があるなど。
  • 場所:皮膚の表面だけでなく、筋肉の間や皮下脂肪にできることもあり、その場合は歩き方や動きに違和感が見られることがあります。
  • 犬の様子:しこりを痛がる、頻繁に舐めたり噛んだりする、熱を持っている、など。逆に全く気にしない場合もあります。

例えば、良性腫瘍の一種である「脂肪腫」は、比較的柔らかく弾力のあるしこりで、「軟部腫瘍」とも呼ばれます。

犬のしこり、原因は?

考えられる主な原因

乳腺腫瘍
皮膚にできる腫瘍(良性・悪性)
イボ(ウイルス性・老人性)

犬のしこりの原因として、主に「乳腺腫瘍」「皮膚の腫瘍」「イボ」の3つが考えられます。イボや脂肪腫のように老化が関係するものもありますが、「腫瘍」とつくものは悪性、つまり「がん」の可能性も含まれるため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。

原因1:乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は、避妊手術をしていない中高齢のメス犬に最も多く見られる腫瘍です。しこりは胸部、脇の下、下腹部、内股など乳腺に沿ってでき、大きさや硬さは様々です。

犬の乳腺腫瘍は、約50%が悪性であるというデータもあり、早期の対応が求められます。しこりが小さくても、大きくなったり数が増えたりすると、悪性や他の臓器への転移のリスクが高まります。

原因2:皮膚の腫瘍(がん)

皮膚にできる腫瘍は、乳腺腫瘍に次いで発生率が高いものです。良性のものも多いですが、悪性の皮膚がんも存在します。

代表的な皮膚の腫瘍には「肥満細胞腫」「扁平上皮がん」「悪性黒色腫(メラノーマ)」などがあり、種類は多岐にわたります。皮膚に硬いしこりができ、触っても痛がらないことが特徴の一つです。進行すると表面がただれて出血したり、急に大きくなったりすることもあります。

原因3:イボ

犬のイボは、主にウイルス感染による「乳頭腫(パピローマ)」と、加齢による「老人性イボ(皮脂腺腫など)」に分けられます。

特に免疫力の低い子犬や老犬に多く見られ、カリフラワー状の見た目をしていることが多いです。多くは良性で、自然に消えることもありますが、急に大きくなる、色が変わる、出血するといった変化が見られる場合は、他の腫瘍の可能性も考えられるため注意が必要です。

犬のしこり、発症しやすい犬種はいる?

犬のしこりは、基本的にはどの犬種でも発症する可能性があります。しかし、腫瘍の種類によっては、特定の犬種で発生しやすい傾向が見られます。

  • 脂肪腫:ラブラドール・レトリバー、ドーベルマンなど。特に中高齢の肥満気味の犬に多いです。
  • 肥満細胞腫:パグ、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグなどの短頭種に好発します。
  • 組織球腫:若い犬(3歳以下)に多く見られる良性腫瘍です。
  • 乳腺腫瘍:プードル、マルチーズ、シーズーなど。未避妊のメス犬全般でリスクが高いです。
  • 悪性リンパ腫:ゴールデン・レトリバー、ボクサーなどに多いとされています。

良性腫瘍と悪性腫瘍の違い

犬のしこりを見つけた飼い主さんにとって、最も気になるのが「良性」か「悪性」かという点です。確定診断は動物病院での検査が必要ですが、一般的な違いを知っておくことは大切です。

  • 良性腫瘍の特徴
    成長がゆっくりで、周囲の組織との境界がはっきりしています。しこりを触ると動くことが多く、基本的には他の場所へ転移しません。手術で切除すれば再発のリスクも低いです。(例:脂肪腫、乳頭腫)
  • 悪性腫瘍(がん)の特徴
    成長スピードが速く、短期間で大きくなることがあります。周囲の組織に染み込むように広がる(浸潤)ため、境界が不明瞭です。他の臓器へ転移したり、手術後に再発したりする可能性が高いです。(例:肥満細胞腫、悪性黒色腫)

見た目だけで良性・悪性を判断するのは極めて困難なため、専門家である獣医師の診断が不可欠です。

犬のしこり、発症してしまった場合の対処は?

犬のしこりの種類によって、対処法や治療法は大きく異なります。いずれの場合も、まずは動物病院で正確な診断を受けることが治療の第一歩です。

乳腺腫瘍

治療の基本は、腫瘍と周辺の乳腺組織を一緒に切除する外科手術です。腫瘍が悪性で、転移のリスクがある場合は、手術後に抗がん剤治療や放射線治療などを組み合わせることもあります。

皮膚の腫瘍(がん)

悪性腫瘍は進行が速く、命に関わるため、早期の外科手術による切除が最も一般的な治療法です。腫瘍の種類や進行度によっては、レーザー治療、放射線治療、抗がん剤治療、分子標的薬などが選択されます。がんは早期発見・早期治療が完治の鍵を握ります。

イボ

良性のイボで、犬が気にしておらず生活に支障がなければ、経過観察となることが多いです。ただし、大きくなる、数が増える、出血する、場所が悪い(まぶたや足の裏など)といった場合は、液体窒素やレーザーで切除することもあります。

黒や赤黒い色をしている、急に大きくなるなど、悪性腫瘍(メラノーマなど)が疑われる場合は、すぐに動物病院で診てもらいましょう。

※ヒマシ油などの民間療法を試す前に、まずは必ず獣医師に相談し、しこりの正体を明らかにしてください。

犬のしこり、どんな検査が必要?

主な検査方法

視診・触診
細胞診(針生検)
病理組織検査

動物病院では、犬のしこりの正体を突き止めるために、段階的に検査を行います。

検査1:視診・触診と細胞診(針生検)

まずは獣医師がしこりの大きさ、硬さ、場所などを直接見て触って確認します。その後、多くの場合「細胞診」を行います。これは、しこりに細い注射針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。麻酔なしで実施でき、その場で良性か悪性かの大まかな判断がつくことが多いです。

検査2:画像診断(レントゲン・エコー)

しこりが悪性の可能性がある場合や、体の奥深くにできている場合、他の臓器への転移がないかを確認するために、レントゲン検査や超音波(エコー)検査を行います。

検査3:病理組織検査

最も確実な確定診断の方法です。手術で切除したしこりの組織を専門の機関に送り、詳細に調べる検査です。腫瘍の種類の特定や、悪性度(グレード)の判定ができ、今後の治療方針を決める上で非常に重要な情報となります。

犬のしこり、対策するには?

犬のしこりを完全に予防する方法はありませんが、日々のケアでリスクを下げたり、早期発見につなげたりすることは可能です。

  • 毎日のボディチェック:愛犬とのスキンシップを兼ねて、頭から尻尾の先まで全身を優しく撫で、しこりや皮膚の異常がないかチェックする習慣をつけましょう。
  • 適切な体重管理:肥満は様々な病気のリスクを高めます。バランスの取れた食事と適度な運動で、健康的な体型を維持しましょう。
  • 早期の避妊・去勢手術:メス犬の乳腺腫瘍は、初回発情前に避妊手術を行うことで、発生率を大幅に下げることができます。
  • 定期的な健康診断:症状が出ていなくても、年に1〜2回は動物病院で健康診断を受け、病気の早期発見に努めましょう。

愛犬の健康を守ってあげられるのは飼い主さん!

かけがえのない家族の一員である愛犬には、一日でも長く、元気にそばにいてほしいですよね。

犬のしこりは、心配のないイボから、命を脅かす悪性腫瘍まで様々です。飼い主さん自身の判断で「大丈夫だろう」と様子を見ることは、発見の遅れにつながる危険性があります。日頃から愛犬の体をよく観察し、小さなしこりでも見つけたら、まずはかかりつけの動物病院に相談してくださいね。

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