【獣医師監修】犬の歯槽膿漏(歯周病)とは?症状・原因・治療法と費用、予防策を解説

人と犬に共通する病気に、歯茎の炎症が骨まで達してしまう「歯槽膿漏」があります。これは犬の代表的な口の病気である歯周病が悪化した状態で、別名で根尖膿瘍(こんせんのうよう)とも呼ばれます。

放っておくと、愛犬が痛みでご飯を食べられなくなるなど生活に大きな支障をきたすため、具体的な対策や治療方法を事前に知り、重症化する前に防ぐことが大切です。

この記事では、犬の歯槽膿漏について、その原因から具体的な症状、動物病院での治療方法、治療にかかる費用、そして家庭でできる予防・対策まで、獣医師の解説も交えて詳しく解説します。

犬の歯槽膿漏、原因は?

犬の歯槽膿漏における最大の原因は、口内に溜まった「歯垢(しこう)」です。歯に付着した食べ物のカスを放置すると、唾液中の成分と結びついて歯垢が形成されます。

この歯垢は、わずか2~3日で石のように硬い「歯石(しせき)」へと変化します。歯石の表面はザラザラしているため、さらに歯垢が付着しやすくなるという悪循環に陥ります。そして、歯石に付着した細菌が毒素を出し、歯の土台である歯肉に炎症を引き起こします。この歯肉の炎症がさらに悪化し、歯を支える顎の骨(歯槽骨)まで溶かしてしまう状態が「歯槽膿漏」なのです。

また、外傷によって歯が折れたり、硬いものを噛んで歯が摩耗したりして、歯の内部にある歯髄(しずい)が露出し、そこから細菌感染を起こすことも歯槽膿漏の原因となります。

歯槽膿漏は、特に免疫力が低下しやすいシニア犬(老犬)に多く見られる病気です。

犬の歯槽膿漏、症状は?

犬の歯槽膿漏が進行すると、以下のような様々な症状が現れます。愛犬の些細な変化を見逃さないことが早期発見に繋がります。

  • 口がひどく臭う(腐敗臭のような口臭)
  • よだれが増え、血が混じることもある
  • 目の下や頬など、顔の一部が腫れる
  • 痛みで硬いものを食べたがらない、食欲が低下する
  • 歯がぐらぐらする、歯が抜ける
  • くしゃみや鼻水、鼻血が出る(口と鼻の間の骨が溶けた場合)

これらの症状に気づいたら、すでに歯肉炎や歯槽膿漏が進行しているサインかもしれません。特に、これまでと違う強い「口臭」を感じた場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

犬の歯槽膿漏を放置することは非常に危険です。重症化すると、炎症によって顎の骨が溶け、膿が皮膚を突き破って顔に穴が開いてしまうこと(外歯瘻)もあります。こうなると治療も大掛かりになり、愛犬の負担も大きくなります。歯槽膿漏は自然治癒しないため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。

vet監修獣医師先生

炎症によって穴が開き、口の中と鼻の中が貫通する「口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)」になると、くしゃみや鼻水、鼻血といった症状が出ることがあります。

犬の歯槽膿漏、治療方法は?

動物病院で犬が歯槽膿漏と診断された場合、その進行度に応じて、主に歯石除去や抜歯、内科治療が行われます。

【歯石除去(スケーリング)】
犬の歯石除去は、処置中に暴れてしまう危険を防ぐため、全身麻酔をかけて行うのが一般的です。超音波スケーラーという専門の器具を使い、歯の表面や歯周ポケットに付着した歯石を丁寧に取り除きます。処置後には、歯石の再付着を防ぐために歯の表面を滑らかにする研磨(ポリッシング)を行うこともあります。

【抜歯】
歯槽膿漏の原因となっている歯や、すでにぐらぐらしてしまっている歯は、回復が見込めないため抜歯の対象となります。また、感染した歯髄を取り除き、感染部位を洗浄・消毒する処置も行われます。

【内科治療(抗生物質の投与)】
歯茎の炎症や感染を抑えるために、症状に合わせて抗生物質が投与されます。これは外科処置と並行して行われることが多い治療法です。

犬の歯槽膿漏、治療費は?

費用

約20,000円~50,000円以上

犬の歯槽膿漏の治療費は、症状の進行度によって変動しますが、全身麻酔下での歯石除去だけでも2万円前後が目安です。

人の歯科治療と違い、安全な処置のために全身麻酔が必須となるため、費用は高額になる傾向があります。もし歯の状態が悪く、複数本の抜歯が必要になった場合は、5万円以上かかることも想定しておくとよいでしょう。

処置後に処方される抗生物質などの薬代は、別途1週間分で1,000円程度が目安です。

犬の歯槽膿漏、対策は?

犬の歯槽膿漏を予防するための最も効果的な対策は、原因となる歯垢を溜めない「毎日のデンタルケア」です。

食べかすは約24時間で歯垢になり、歯垢はわずか2~3日で硬い歯石に変化してしまいます。歯石になってしまうと自宅での歯磨きでは除去できません。そのため、歯垢の段階で取り除く毎日の歯磨きが非常に大切です。犬用の歯ブラシや歯磨きシートを使い、飼い主さんが責任をもって愛犬の口内環境を管理し、健康な歯を保ってあげましょう。

歯槽膿漏の対策には歯磨きの習慣が大切

もし愛犬が歯ブラシを嫌がる場合は、無理強いは禁物です。まずは歯磨き効果のあるおもちゃや、指に塗って舐めさせるだけの歯磨きジェルなど、愛犬が受け入れやすいアイテムから試してみましょう。

大切な愛犬を歯槽膿漏の痛みから守るためにも、根気強くケアを続け、毎日の歯磨きを良いコミュニケーションの時間として習慣にしていきましょう。

vet監修獣医師先生

歯磨きの習慣化は根気がいりますが、まずは口周りを触られることに慣れさせ、次に歯を触る、そして歯ブラシを当てる、というように段階を踏んで進めるのが成功のコツです。

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