【獣医師監修】犬の生理(ヒート)とは?周期・期間・症状と正しい対処法を解説

愛犬の生理(ヒート)について、正しい知識を持っていますか?犬の生理は人間の生理とは仕組みが大きく異なり、知らないと思わぬトラブルにつながることも。メス犬と暮らす飼い主さんにとって、必ず知っておきたい大切な知識です。

この記事では、犬の生理がいつから始まるのか、周期や期間、各時期の症状、そして生理中の散歩で使うパンツやおむつの必要性まで、網羅的に解説します。愛犬の体の変化を理解し、適切にケアしてあげましょう。

犬の生理とは

犬の生理とは、メス犬の繁殖が可能になる一連の身体的変化の期間を指し、一般的には「ヒート」と呼ばれます。避妊手術をしていない健康なメス犬であれば、定期的に訪れる自然な現象です。

この生理期間は、次の妊娠に向けた準備段階であり、出血を伴うのが特徴です。ちなみに、人間以外で出血を伴う生理がある哺乳類は珍しく、高等霊長類やイヌ科など一部の動物に限られています。

人間の生理との違い

犬と人間の生理は、その目的と仕組みが根本的に異なります。飼い主として知っておきたい主な違いは以下の2点です。

  • 出血のタイミング:人間は排卵後に妊娠しなかった場合に子宮内膜が剥がれ落ちて出血しますが、犬の生理は「これから排卵が起こる」という妊娠準備のサインとして出血します。
  • 閉経の有無:人間には閉経がありますが、犬にはありません。犬はシニアになっても卵巣機能が働き続けるため、生涯にわたって生理(ヒート)が続き、妊娠も可能です。

犬の生理はいつから始まる?周期は?期間は?

犬の生理 サイクル

発情前期 約7~10日(出血が見られる期間)
発情期 約7~10日(排卵があり妊娠可能な期間)
発情休止期 約2ヶ月(妊娠期間または体の回復期間)
無発情期 約4ヶ月(次の発情までの期間)

犬の生理(ヒート)がいつから始まるか、その周期や期間には個体差がありますが、一般的な目安は以下の通りです。

【始まる時期】
初回の生理は、小型犬で生後6~10ヶ月、大型犬では生後10ヶ月~1年半頃に迎えるのが一般的です。個体差が大きいため、2歳近くで初めて迎える子もいます。

【周期】
生理の周期は犬種に関わらず、年に2回(約6ヶ月に1回)が基本です。ただし、これも個体差や年齢によって変動することがあります。

【期間】
出血が始まってから終わるまでの期間(発情前期~発情期)は、合計で約2~3週間続きます。その後、約4~8ヶ月の無発情期を経て、次の生理が始まります。

犬の生理「発情前期」の様子・症状は?出血に注意

発情前期の注意点

陰部からの出血
尿のフェロモン

発情前期は、生理の始まりのサインが見られる約7~10日間の期間です。この時期の犬には、以下のような様子や症状が現れます。

  • 陰部の腫れと出血:外陰部が普段より大きく腫れ、少量の出血が見られます。犬自身が舐めとってしまうため、飼い主が出血に気づかないこともあります。お尻を頻繁に気にする仕草が見られたら、生理のサインかもしれません。
  • 行動の変化:ソワソワと落ち着きがなくなったり、神経質になったりすることがあります。
  • 頻尿・マーキング:おしっこの回数が増え、マーキングのような行動をすることがあります。この時期のおしっこにはオス犬を惹きつけるフェロモンが含まれています。
  • 食欲不振:一時的に食欲が落ちることがありますが、元気であれば心配しすぎる必要はありません。

この時期は、オス犬を惹きつけますが、まだ交尾を受け入れる段階ではありません。オス犬がしつこく追いかけるとトラブルの原因になるため、散歩は他の犬が少ない時間帯を選び、ドッグランの利用は控えるようにしましょう。

犬の生理「発情期」の様子・症状は?オス犬に注意

発情期の注意点

排卵後の妊娠可能期
オス犬との接触

発情前期が終わると、いよいよ排卵が起こる「発情期」に入ります。この期間も約7~10日続き、望まない妊娠を避けるために最も注意が必要な時期です。

発情期に見られる主な症状や変化は以下の通りです。

  • 出血量の変化:出血量が減り、色は薄いピンク色やおりもの状に変化します。出血が止まったように見えても、発情期は続いています。
  • オス犬を受け入れる:お尻を高く上げて尻尾を横にずらすなど、オス犬の交尾を受け入れる姿勢を見せるようになります。

この時期は妊娠の可能性が非常に高いため、散歩の際は必ずリードを短く持ち、オス犬との接触を完全に避ける必要があります。一瞬の隙に交尾してしまうこともあるため、普段屋外で飼っている場合でも、この期間だけは室内で過ごさせるのが安全です。

一度交尾が始まると、オスとメスは結合したまま離れなくなります(ロック状態)。無理に引き離そうとするとお互いに大怪我をする危険があるため、絶対に試みないでください。

犬の生理「発情後期」の様子・症状は?偽妊娠に注意

発情後期の注意点

偽妊娠

発情期が終わり、オス犬を受け入れなくなると「発情後期(発情休止期)」に入ります。この時期は約2ヶ月続き、体は妊娠しているかどうかにかかわらず、妊娠を維持するためのホルモン(黄体ホルモン)が分泌されます。

そのため、実際には妊娠していないのに、妊娠しているかのような兆候を見せる「偽妊娠(想像妊娠)」が起こりやすいのが特徴です。

偽妊娠の主な症状には、お乳が張る・母乳が出る、食欲不振、ぬいぐるみを子どものように世話する、巣作り行動などがあります。通常は自然に治まりますが、母乳を自分で舐めて乳腺炎を起こすこともあります。症状が長引いたり、愛犬の様子がいつもと大きく違う場合は、動物病院に相談しましょう。

生理中の散歩は、生理用パンツをはく?紙おむつ?メリットデメリットまとめ

犬の生理中の出血で、室内や家具が汚れるのを防ぐために「犬用生理パンツ」や「マナーウェア(おむつ)」は非常に便利なアイテムです。特に初めて愛犬の生理を経験する飼い主さんは、使用を検討すると良いでしょう。

しかし、使用にはメリットとデメリットの両方があります。

生理用パンツ・おむつのメリット

  • 血液で室内や車内が汚れるのを防げる
  • お出かけの際に周囲への配慮ができる
  • 犬自身が陰部を舐めすぎるのを防ぐ

生理用パンツ・おむつのデメリットと注意点

  • 長時間の着用は蒸れて皮膚炎(かぶれ)の原因になる
  • 違和感からストレスを感じたり、脱ごうとしたりする犬もいる
  • 誤って食べてしまう(誤飲)リスクがある
  • パンツやおむつは、交尾を防ぐことはできません。妊娠防止の効果はないため、散歩中のオス犬との接触には最大限の注意が必要です。

使用する際は、こまめに取り替えて清潔を保ち、愛犬が嫌がらないか様子を見ながら活用してください。

生理中のお手入れ、シャンプーはしてもいい?

生理中にシャンプーをすること自体は問題ありません。むしろ、ヒート中は免疫力が低下しやすく、陰部周りを清潔に保つことは感染症予防の観点からも大切です。

ただし、生理中は犬もデリケートで疲れやすい状態です。シャンプーをする際は、愛犬の体調が良い日を選び、なるべく手早く済ませて体を冷やさないように注意しましょう。シャンプーが負担になりそうな場合は、お湯で絞ったタオルで体を拭いたり、陰部周りだけを優しく洗ってあげるだけでも十分です。

避妊手術について

避妊手術の費用

2~5万円

避妊手術の時期

生後7ヶ月の前後1~2ヶ月

避妊手術は、全身麻酔下で卵巣、または卵巣と子宮を摘出し、繁殖できなくする手術です。将来的に繁殖を考えていない場合、多くのメリットがある選択肢となります。

手術の時期は、最初の発情が来る前の生後6ヶ月前後が推奨されることが多いですが、最適なタイミングは犬の成長や健康状態によるため、獣医師との相談が不可欠です。費用は病院や犬のサイズによって異なりますが、2~5万円程度が一般的です。

避妊手術のメリット

メリット

望まない妊娠を確実に防げる
メス特有の病気のリスクを低減
発情によるストレスの軽減

避妊手術の最大のメリットは、望まない妊娠を100%防げることです。その他にも、初回発情前に手術を行うことで「乳腺腫瘍」の発生率を大幅に下げたり、命に関わる「子宮蓄膿症」や「卵巣腫瘍」といった病気を予防できたりする大きな健康上の利点があります。また、生理期間中の様々なストレスから愛犬と飼い主の両方を解放してくれます。

避妊手術のデメリット

デメリット

肥満になりやすい
一部の病気のリスクが高まる可能性

デメリットとしては、ホルモンバランスの変化により基礎代謝が落ち、食欲が増す傾向があるため、肥満になりやすくなる点が挙げられます。手術後は、食事管理や適度な運動がより重要になります。

また、非常に稀ですが、「尿失禁」や一部の腫瘍(骨肉腫、血管肉腫など)のリスクがわずかに高まるという報告もあります。全身麻酔のリスクもゼロではありません。メリットとデメリットを正しく理解し、獣医師としっかり話し合って決断することが大切です。

犬の生理期間は、慎重に対処

犬の生理(ヒート)は、出血が始まる発情前期から発情期が終わるまでの約2~3週間が、特に注意深く見守りたい期間です。この期間は、愛犬の心と体に様々な変化が起こります。特に散歩中は、意図しない妊娠や他の犬とのトラブルを避けるため、慎重な対応が求められます。

愛犬の生理は、健康のバロメーターでもあります。正しい知識を持ち、日々の変化に気づいて適切にケアしてあげることが、飼い主の重要な役割です。将来の繁殖を望まない場合は、病気の予防にも繋がる避妊手術も有力な選択肢となります。愛犬にとって何が最善かを家族や獣医師とよく話し合い、より健やかで楽しいペットライフを送りましょう。

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