猫の貧血、見逃せない危険なサインは?症状・原因・治療法を解説

「うちの猫、もしかして貧血?」そう感じても、猫の貧血は意外と見過ごされがちな健康問題の一つです。しかし、貧血は命に関わる深刻な病気のサインである可能性も。早期に原因を突き止め、適切な対策を講じることが愛猫の健康を守る鍵となります。

この記事では、猫の貧血について、飼い主さんが知っておくべき症状や原因、動物病院での診断・治療法、そして日常生活でできる対策や注意点を詳しく解説します。

猫の貧血、症状は?

貧血の主な症状
  • 元気がない、ぐったりしている
  • あまり動きたがらない、すぐ疲れる
  • 食欲不振、または全く食べない
  • 呼吸が速い、息苦しそうにする
  • 歯茎や舌など口の粘膜が白っぽい
  • 白目や口の粘膜が黄色くなる(黄疸)
  • おしっこの色が濃い(赤茶色や黒っぽい色)

猫が貧血になると、体中に酸素を運ぶ赤血球が減少するため、上記のような様々な症状が現れます。特に、普段はピンク色のはずの歯茎や舌、まぶたの裏側が白っぽく見えるのは、貧血のわかりやすいサインです。

また、赤血球が破壊されるタイプの貧血(溶血性貧血)では、ビリルビンという物質が過剰になり、白目や皮膚が黄色くなる「黄疸」が見られることもあります。いつもと様子が少しでもおかしいと感じたら、自己判断せずにすぐに動物病院を受診してください。放置すると重症化し、命の危険に繋がる可能性があります。

猫の貧血、原因は?

猫の貧血を引き起こす原因は多岐にわたりますが、赤血球が作られない「非再生性貧血」、赤血球が破壊される「溶血性貧血」、出血によって赤血球が失われる「出血性貧血」の3つに大別されます。中でも、猫では様々な要因で起こる溶血性貧血が多く見られます。

自己免疫性

自己免疫性溶血性貧血(IMHA)は、本来自らを防衛するはずの免疫システムに異常が生じ、自身の赤血球を異物と誤認して攻撃・破壊してしまう病気です。なぜこのような異常が起こるのか、はっきりとした原因は解明されていません。

外傷によるもの

交通事故や高所からの落下など、強い衝撃による内出血や臓器損傷で大量に出血すると、出血性の貧血が起こります。これは「外傷性溶血性貧血」とは少し異なり、物理的に血液が失われることが直接の原因です。

遺伝で起こるもの

特定の猫種では、遺伝的に赤血球の異常が起こりやすいケースがあります。代表的なのが「ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症」です。これは赤血球が正常に機能するための酵素が生まれつき欠損しているため、赤血球が壊れやすくなり貧血を引き起こします。

他には?

上記以外にも、猫の貧血は様々な病気や要因によって引き起こされます。これを二次性貧血と呼びます。
代表的な原因には「中毒」「感染症」「慢性腎臓病」などがあります。

  • 中毒:タマネギや長ネギ、ニンニク、人間用の医薬品、殺虫剤などを誤食すると、赤血球が破壊され中毒性の貧血を起こします。
  • 感染症:猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)、ヘモプラズマ(旧ヘモバルトネラ)などの感染は、骨髄の働きを抑制したり、赤血球を破壊したりして貧血の原因となります。
  • 慢性腎臓病:腎臓は赤血球の産生を促すホルモンを分泌しています。そのため、慢性腎臓病で腎機能が低下すると、このホルモンが不足し、再生不良性の貧血(腎性貧血)に陥ります。
  • その他:鉤虫などの寄生虫、ノミの大量寄生、悪性リンパ腫などの腫瘍、糖尿病、甲状腺機能亢進症なども貧血の原因となり得ます。

猫の貧血、診断方法は?

猫の貧血が疑われる場合、動物病院では原因を特定するために様々な検査を行います。飼い主さんからの問診(いつから症状があるか、生活環境、誤食の可能性など)も重要な診断材料となります。

主な検査内容は以下の通りです。

  • 身体検査:体温測定、聴診、粘膜の色(歯茎、結膜)の確認、リンパ節の腫れや腹部の触診などを行います。
  • 血液検査:貧血の確定診断に必須の検査です。赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値などを測定し、貧血の重症度を評価します。同時に、白血球や血小板の数、肝臓や腎臓の数値なども調べ、全身状態や原因疾患の手がかりを探します。
  • 尿検査:血尿や黄疸の指標となるビリルビンの有無、腎機能の状態などを評価します。
  • 画像検査(X線・超音波):内出血や腫瘍、異物の誤飲などがないか、内臓の状態を確認します。
  • 特殊検査:感染症が疑われる場合はウイルス検査、遺伝性疾患が疑われる場合は遺伝子検査など、必要に応じて追加の検査が行われます。

これらの検査結果を総合的に判断し、貧血の原因を突き止めて治療方針を決定します。自宅での判断は困難なため、疑わしい症状が見られたら速やかに獣医師の診断を仰ぎましょう。

猫の貧血、治療はどのように行う?

猫の貧血治療は、根本的な原因を取り除くことが最も重要です。原因疾患に応じて、治療法は大きく異なります。

  • 免疫介在性溶血性貧血の場合:ステロイド剤などの免疫抑制剤を投与し、赤血球への自己攻撃を抑える治療が中心となります。血栓症を予防する薬を併用することもあります。
  • 感染症が原因の場合:原因となるウイルスや細菌、寄生虫に対する治療(抗生剤、駆虫薬など)を行います。
  • 慢性腎臓病が原因の場合:腎臓病自体の治療に加え、赤血球の産生を促すホルモン剤の投与などが行われます。
  • 中毒が原因の場合:原因物質を体外へ排出させるための催吐処置や輸液、胃洗浄、解毒剤の投与など、迅速な処置が求められます。
  • 重度の貧血の場合:原因の治療と並行して、症状が重く命の危険がある場合には、失われた赤血球を補うために輸血が行われることもあります。

治療は長期にわたることも少なくありません。獣医師と緊密に連携し、根気強く治療を続けることが大切です。

猫の貧血、対策はできる?

猫の貧血を100%防ぐことは困難ですが、原因によっては飼い主さんの工夫でリスクを減らすことが可能です。

貧血の原因となりうる猫白血病ウイルス感染症(FeLV)などは、ワクチン接種で予防できます。また、ノミやマダニは吸血によって貧血を引き起こすだけでなく、ヘモプラズマなどの感染症を媒介することもあるため、定期的なノミ・マダニ駆除薬の投与は非常に有効な対策です。

猫の貧血、飼い主が注意することは?

愛猫を貧血から守るために、飼い主さんが日常生活で注意すべき点がいくつかあります。特に「感染症の予防」と「中毒の予防」が重要です。

最も効果的なのは完全室内飼育を徹底することです。屋外は交通事故や、感染症を持つ他の猫との接触、ノミ・マダニの寄生、除草剤や殺鼠剤といった毒物の誤食など、危険で満ちあふれています。室内で暮らすことで、これらのリスクの多くを回避できます。

また、室内であっても、猫にとって有毒な植物や食べ物、化学物質を誤って口にしないよう、管理を徹底しましょう。特にタマネギや長ネギ、人間用の医薬品、殺虫剤、不凍液(エチレングリコール)などは猫の手の届かない場所に厳重に保管してください。

猫の貧血、かかりやすい猫種は?

遺伝性貧血にかかりやすい猫種
  • アビシニアン
  • ソマリ
  • アメリカンショートヘアー

全ての猫に貧血のリスクはありますが、中でも遺伝性疾患である「ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症」が原因の貧血は、上記の猫種で好発します。この病気は、赤血球がエネルギーをうまく作れず、壊れやすくなってしまう遺伝性の疾患です。

これらの猫種を家族に迎える際は、ブリーダーが遺伝子検査を行っているか確認することも、将来のリスク管理に繋がります。

室内飼育が対策に最適!

これまで述べてきたように、猫の貧血の原因には、飼育環境を整えることで防げるものが数多く存在します。その最も効果的な対策が「完全室内飼育」です。

室内飼育は、猫白血病ウイルスなどの感染症を持つ猫との接触や、命を脅かす交通事故、ノミ・マダニといった寄生虫、殺虫剤などの毒物との遭遇といった、様々なリスクから愛猫を遠ざけます。室内の安全な環境を整え、猫にとって危険な食べ物(玉ねぎ、ネギ類など)や化学物質を厳重に管理することが、何よりの貧血対策となるのです。日々の健康チェックと合わせて、愛猫が安心して暮らせる環境づくりを心がけましょう。

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