猫も人間と同じように、生理現象としてくしゃみをします。しかし、猫のくしゃみが止まらない、または鼻水や鼻血を伴う場合は、単なる生理現象ではなく病気のサインかもしれません。
特に、くしゃみが何日も続く、元気や食欲がないといった他の症状が見られる場合は注意が必要です。放置すると重症化する恐れもあるため、早めに原因を突き止めることが大切です。
この記事では、猫のくしゃみから考えられる病気や、正常なくしゃみとの見分け方、動物病院で行う検査について詳しく解説します。
猫のくしゃみ、正常と異常の見分け方は?
連続してくしゃみをしていないか
くしゃみが何日も続いていないか
鼻水(透明、黄色、緑色など)を伴うか
鼻血(鼻出血)を伴うか
食欲不振や元気消失など、他の症状はないか
正常なくしゃみのポイント
猫のくしゃみは、鼻に入ったホコリやハウスダスト、強い匂いなどの異物を排出しようとする自然な体の反応です。首を振りながら「クシュン!」と1〜2回する程度で、その後はケロッとしているなら心配いりません。1日に数回程度の単発のくしゃみは、正常な生理現象と考えて良いでしょう。
病気によるくしゃみのポイント
一方で、病気が原因のくしゃみには注意が必要です。「くしゃみが連続で出る」「何日も止まらない」「黄色や緑色の鼻水を伴う」といった場合は、感染症やアレルギーなど何らかの病気が隠れている可能性があります。
さらに、食欲の低下、元気がない、目ヤニが多い、涙目、呼吸が苦しそうといった症状も同時に見られる場合は、病気の可能性がより高まります。愛猫の様子がいつもと違うと感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。
くしゃみの原因を詳しく調べるための方法
血液検査
X線(レントゲン)検査
猫のくしゃみの原因が病気だと疑われる場合、動物病院で詳しい検査を受けることが推奨されます。主な検査は「血液検査」や「X線検査」です。
血液検査では、炎症の有無や、いわゆる「猫風邪」の原因となるウイルス、アレルギーの可能性などを調べることができます。費用は項目にもよりますが、20,000円前後が目安です。
X線検査は、鼻の内部(鼻腔)や副鼻腔の状態を確認するのに有効です。この検査により、鼻炎や副鼻腔炎、場合によっては鼻腔内腫瘍の有無などを評価できます。費用はレントゲン1枚あたり3,000円〜4,000円ほどが目安です。
猫のくしゃみから考えられる病気1.「鼻炎」
くしゃみ
水っぽいサラサラした鼻水
猫の鼻炎は、くしゃみの原因として非常に多い病気です。主な原因には「室内の乾燥」「ハウスダストや花粉などのアレルギー」「ウイルスや細菌の感染」などがあります。初期症状としては、くしゃみと共に水のようにサラサラした鼻水が見られます。
鼻炎が悪化すると、鼻水が黄色や緑色でネバネバしたものに変化し、鼻詰まりを起こして呼吸が苦しそうになることもあります。匂いが分かりにくくなることで、食欲が落ちてしまう猫も少なくありません。
軽度の鼻炎は自然に治ることもありますが、感染症が原因の場合は肺炎に進行したり、慢性化してしまったりするケースもあります。くしゃみや鼻水が続く場合は、早めに獣医師に相談しましょう。
食物アレルギーを対策するために
猫も人間と同様に、特定の食べ物に対して食物アレルギーを起こし、くしゃみや皮膚炎などの症状を示すことがあります。
アレルギー対策の第一歩は、原因となるアレルゲンを特定し、それを除去することです。普段与えているキャットフードやおやつの原材料を確認し、獣医師と相談しながらアレルギー対応のフードを試すのも良いでしょう。
猫のくしゃみから考えられる病気2.「副鼻腔炎」
くしゃみ
粘り気のある鼻水
鼻筋の腫れ
鼻詰まりによる呼吸困難
鼻の奥にある副鼻腔という空間で炎症が起きるのが副鼻腔炎です。くしゃみや粘り気の強い鼻水、鼻詰まりといった症状が見られます。炎症がひどくなると、鼻筋あたりが腫れて盛り上がってくることもあります。
副鼻腔炎は、慢性的な鼻炎から進行して発症することが多いため、鼻炎の症状が見られた段階で治療を開始することが、副鼻腔炎への悪化を防ぐ鍵となります。
猫のくしゃみから考えられる病気3.「猫クラミジア感染症」
くしゃみ、鼻水
しつこい目ヤニを伴う結膜炎
呼吸器系の炎症
猫クラミジア感染症は、くしゃみや鼻水といった症状に加えて、ドロッとした大量の目ヤニを伴う「結膜炎」が特徴的な病気です。悪化すると肺炎などの深刻な呼吸器症状を引き起こすこともあります。
この病気は、まれに猫から人へも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」の一つです。特に免疫力の低い子猫(生後1年未満)で発症しやすく、感染猫との接触によって広がります。感染力が非常に強いため、多頭飼いの環境では一気に感染が拡大する危険性があります。疑わしい症状が見られたら、速やかに隔離し、動物病院へ連れて行きましょう。
猫のくしゃみから考えられる病気4.「猫ウイルス性鼻気管炎」
激しいくしゃみや咳
鼻水、鼻詰まり
目の充血、涙、目ヤニ
発熱、食欲不振
猫ウイルス性鼻気管炎は、猫ヘルペスウイルス1型によって引き起こされる感染症で、「猫風邪」の代表的な原因の一つです。上記の通り、くしゃみ、鼻水、結膜炎、発熱など、人間の風邪に似た症状を示します。重症化すると角膜炎や慢性鼻炎に移行することもあります。
このウイルスは感染力が非常に強く、感染猫のくしゃみやよだれなどの飛沫を介して直接感染するほか、食器や飼い主の手指を介して間接的に感染することも。ワクチンで予防できる病気のため、定期的な接種が非常に重要です。
猫のくしゃみから考えられる病気5.「猫カリシウイルス感染症」
くしゃみ、鼻水
発熱
舌や口の中にできる潰瘍(口内炎)
猫カリシウイルス感染症も「猫風邪」の主要な原因ウイルスで、くしゃみ、鼻水、発熱といった症状が見られます。この病気の最大の特徴は、舌や口の粘膜に水疱や潰瘍(口内炎)ができることです。強い痛みを伴うため、よだれが増えたり、食事がとれなくなったりします。
感染猫との接触や、ウイルスが付着した環境からの空気感染で広がります。感染力が高く、特に免疫力が未熟な子猫は重症化しやすいため注意が必要です。乾燥する冬場はウイルスが蔓延しやすいため、特に警戒しましょう。この病気もワクチンで予防が可能です。
猫のくしゃみから考えられる病気6.「クリプトコッカス症」
くしゃみ
膿や血が混じった鼻水
顔や鼻の腫れ
神経症状(運動失調、けいれんなど)
クリプトコッカス症は、クリプトコッカスという真菌(カビの一種)を吸い込むことで発症する病気です。くしゃみや、膿や血の混じったしつこい鼻水、鼻周辺の腫れといった症状が見られます。呼吸時にいびきのような音を出すこともあります。
病原体はハトの糞や、それが含まれる土壌に多く存在するため、屋外に出る猫は感染リスクが高まります。真菌が血流に乗って脳に達すると、けいれんや運動失調などの神経症状や、網膜剥離などの目の病気を引き起こすこともあり、命に関わる危険な病気です。この病気は人間や犬にも感染する可能性があります。
猫のくしゃみから考えられる病気7.「猫エイズウイルス感染症」
初期:発熱、下痢、リンパ節の腫れ
末期:口内炎、歯肉炎、慢性の下痢、様々な感染症
猫エイズウイルス感染症(FIV)は、猫免疫不全ウイルスへの感染によって引き起こされます。主な感染経路は、感染猫との喧嘩による咬み傷で、唾液を介して感染します。空気感染や食器の共用など、日常的な接触で感染するリスクは低いとされています。
感染後の経過は「急性期」「無症状キャリア期」「エイズ発症期」の3段階に分かれます。急性期には発熱や下痢など風邪のような症状が見られますが、その後、数年から10年以上も症状が出ない「無症状キャリア期」が続きます。この間もウイルスは体内で増殖し、免疫細胞を破壊していきます。
最終的に免疫力が著しく低下すると「エイズ発症期」を迎え、治りにくい口内炎や歯肉炎、皮膚病、下痢など、様々な日和見感染を繰り返すようになり、最終的には死に至ります。
くしゃみは兆候!大事なのは病気対策
これまで紹介した病気の中には、「猫ウイルス性鼻気管炎」や「猫カリシウイルス感染症」のように、子猫の頃からのワクチン接種で重症化を防げるものが多くあります。
また、室内を清潔に保ち、適切な温度・湿度を管理するといった飼育環境の整備も、猫の健康を守る上で非常に重要です。これは人間の感染症対策と何ら変わりません。
「たかがくしゃみ」と軽視していると、背後に深刻な病気が隠れていることもあります。日頃から愛猫の様子をよく観察し、少しでも異変を感じたら動物病院に相談する習慣をつけましょう。