【獣医師監修】猫の交尾について|発情期の特徴と繁殖を望まない場合の注意点

「にゃお〜ん」という猫のいつもと違う鳴き声を聞いたことはありませんか?その鳴き声は、メス猫が発情期を迎えたサインかもしれません。猫の交尾は、子孫を残すための自然な本能行動です。

しかし、飼い主としては「交尾は何歳から始まるの?」「発情期にはどんな行動をするの?」「望まない妊娠を避けるにはどうすればいい?」など、多くの疑問や不安が浮かぶことでしょう。

この記事では、猫の交尾が始まる年齢や発情期のサイン、交尾の一連の流れ、妊娠の確率、そして飼い主さんが知っておくべき注意点について詳しく解説します。愛猫の行動を正しく理解し、適切に対応するためにぜひお役立てください。

猫の交尾は発情期を迎えてから

猫の交尾は、メス猫が性的に成熟し「発情期」を迎えることで可能になります。オス猫は、発情したメス猫の鳴き声や体から発せられるフェロモンに刺激されて発情し、交尾への関心を示します。

性成熟の時期

猫が性成熟する時期は、猫種、生まれた季節、日照時間、栄養状態といった様々な要因に影響されます。

一般的には生後6ヶ月〜12ヶ月頃に性成熟を迎えますが、個体差が大きいです。この性成熟が、猫が交尾できるようになるための第一歩です。

発情が始まる季節

猫の発情は日照時間と深く関係しており、「季節繁殖動物」と呼ばれます。日照時間が長くなる春から夏にかけて(1日の日照時間が約14時間以上)発情期を迎えるのが一般的で、特に春が繁殖のピークシーズンです。

ただし、室内飼いの猫の場合は注意が必要です。部屋の照明が12時間以上ついている環境では、季節に関係なく発情し、その回数も増える傾向にあります。

発情期のサイクル

猫の発情期は一度きりではなく、年に数回、周期的に繰り返されます。発情のサイクルは「発情前期」「発情期」「発情後期」「発情休止期」に分かれ、交尾が成立しない場合、発情期(約2週間)を数回繰り返します。

猫の交尾に必要な発情期のサイン

発情期を迎えた猫は、普段とは異なる特有の行動やサインを見せます。これらのサインを理解することが、猫の交尾や体調を管理する上で重要です。

発情期を迎えたメス猫の行動

発情したメス猫には、以下のような特徴的な行動が見られます。

  • 大きな声で「あお〜ん」と鳴き続ける。
  • 床や地面にゴロゴロと体をこすりつける。
  • 人や家具にやたらと体をすり寄せ、甘える。
  • お尻を高く持ち上げ、しっぽを横にずらすポーズ(ロードシス)をとる。
  • オスを惹きつけるフェロモンを含んだ尿を少量吹きかける(スプレー行為)。
  • 食欲が落ちる、落ち着きがなくなる。

これらの行動は、避妊手術を受けていないメス猫特有のものです。子猫や避妊済みの猫にはほとんど見られません。

オス猫の行動

オス猫は、発情したメス猫の鳴き声やフェロモンに強く反応します。メスの鳴き声に応えるように大きな声で鳴き、縄張りを徘徊してメスを探します。

発情中のメスを巡って複数のオスが集まり、激しく争うことも少なくありません。

成熟したオス猫の体の特徴

性成熟したオス猫は、顔の筋肉が発達してえらが張ったような「トム顔」と呼ばれる顔つきになります。また、交尾の際にメスを固定するため、陰茎の表面に「交尾棘(こうびきょく)」という小さなトゲ状の突起が発達します。

猫の交尾が始まる年齢

猫が交尾を始める年齢は、オスとメスで少し異なります。一般的に、オスの方がやや早く性的な行動を見せ始めます。

オス猫の場合

オス猫は生後3ヶ月頃から陰茎が発達し始め、生後4ヶ月頃には他の猫との遊びの中でマウンティングのような行動を学ぶことがあります。実際に交尾が可能になるのは、一般的に生後6ヶ月以降とされています。

メス猫の場合

メス猫が初めての発情期を迎え、交尾が可能になるのは生後6〜9ヶ月頃が一般的です。ただし、早熟な個体では生後4ヶ月で発情することもあります。安全な妊娠・出産のためには、体が十分に成熟する生後1年以降の交配が推奨されます。

猫の交尾相手の選び方

猫は本能的に、より強く健康な子孫を残すための相手を選びます。そこには猫社会のルールが存在します。

オス猫の場合

発情したオス猫は、母親や姉妹との近親交配を避けるため、生まれ育った縄張りを離れて新たな相手を探す傾向があります。複数のオスが1匹のメスを巡って争うため、体が大きくケンカの強いオスが交尾の機会を得やすくなります。また、経験豊富なメス猫に惹かれる傾向も見られます。

メス猫の場合

最終的に交尾相手を決める決定権は、メス猫にあります。いくら体が大きく強いオスであっても、メス猫が受け入れなければ交尾は成立しません。メス猫は、オスの求愛行動や匂いなどを吟味し、相手を選んでいると考えられています。

猫の交尾前に見られる行動

交尾に至るまでには、オスとメスそれぞれに特有の求愛行動が見られます。

オス猫の場合

発情中のメスを見つけたオスは、その匂いに強く惹かれます。メスを刺激しないよう慎重に背後から近づき、外陰部の匂いを嗅いで交尾の準備ができているか確認します。このとき、尿でマーキングをする「スプレー行為」や、匂いをより詳しく分析するための「フレーメン反応(唇をめくり上げて笑っているような表情)」を見せることがあります。

また、メス猫の機嫌をとるために、優しくグルーミング(毛づくろい)をすることもあります。

メス猫の場合

発情中のメス猫は非常に神経質になっています。気に入らないオスが近づくと、威嚇して追い払ったり、猫パンチを繰り出したりします。オスの求愛行動を受け入れ、交尾を許可する準備ができたときのみ、お尻を高く上げる「ロードシス」の体勢をとります。

猫の交尾がはじまるまでの流れ

猫の交尾は、慎重なステップを経て行われます。一度の出産で多くの子猫を産むための、独特の仕組みがあります。

メス猫に少しづつ近づく

オス猫は、神経質になっているメス猫を驚かせないよう、細心の注意を払って距離を詰めます。急に近づきすぎると、メス猫に警戒されて逃げられてしまうため、ゆっくりと様子を伺います。

メス猫にグルーミングをする

メス猫が逃げずに近くにいることを許したら、オスはメスの首筋などを優しく舐めてリラックスさせようとします。このグルーミングでメスが受け入れのサインとして「ロードシス」の体勢をとれば、交尾の準備が整ったことになります。

メス猫の陰部の匂いを嗅ぐ

オスは最終確認として、メス猫の陰部の匂いを嗅ぎ、受胎可能かどうかをチェックします。メスの発情期は約2週間続くため、オスはこの間、ライバルと争いながら根気強く求愛を続けます。

交尾をする

メスが完全な受け入れ体勢になると、オスはメスが動かないように首の後ろを優しく噛んで固定し、背中に乗ります。位置を定めてペニスを挿入し、数回腰を振って射精します。交尾自体は非常に短く、わずか数秒から数十秒で終わります。

猫の交尾後の行動

猫は「交尾排卵動物」といい、交尾の物理的な刺激によって排卵が誘発されるという特徴があります。

射精の直後

射精後、オスがペニスを引き抜く際、陰茎にある小さなトゲがメスの膣内を刺激し、排卵を促します。この刺激はメスにとって痛みを伴うため、甲高い叫び声をあげてオスを攻撃しようとします。そのため、オスは交尾が終わるとすぐにメスから離れます。

交尾を終えたメスは、床にゴロゴロと転がったり、陰部を舐めてきれいにしたりする行動を見せます。これは「後交尾反応」と呼ばれます。

交尾を繰り返す

一度交尾が終わっても、メスの発情は続きます。メスは落ち着くと再びオスを受け入れ、発情期間中に何度も交尾を繰り返します。これにより、妊娠の確率が格段に高まります。

産まれる子猫たちの毛色が異なる理由

一度の出産で産まれる兄弟猫でも、毛色や模様がバラバラなことがあります。これは、メス猫が発情期間中に複数の異なるオス猫と交尾し、それぞれのオスの子を同時に妊娠(過受胎)することがあるためです。

オス猫の去勢手術が推奨される理由

未去勢のオス猫は、発情期のメスを巡って激しく争うため、ケガをしたり、ケンカを通じて猫エイズ(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)などの感染症にかかるリスクが高まります。愛猫の健康と安全を守るため、繁殖を望まない場合は去勢手術が強く推奨されます。

猫の交尾で妊娠する確率

猫は交尾によって排卵が促され、さらに発情期に何度も交尾を繰り返すため、交尾が成功した場合の妊娠確率は非常に高く、ほぼ100%に近いと言われています。1回の交尾で妊娠しなくても、複数回の交尾で確率が上がります。

猫の交尾で飼い主が注意するポイント

家庭で猫の交配を考える際には、飼い主さんが注意すべきいくつかの重要なポイントがあります。

飼い猫を安易に交尾させない

最も大切なことは、生まれてくる子猫たちの命に生涯責任を持てるか、ということです。新しい飼い主が見つからない可能性も考慮し、安易な気持ちで交尾させるのは絶対にやめましょう。繁殖を望む場合でも、猫同士の相性を第一に考え、無理強いは禁物です。

交尾しやすい環境作りを行う

計画的に交配させる場合、妊娠の可能性が高い発情開始から3〜4日目あたりが狙い目です。メス猫がリラックスできる静かで安全な環境を整えてあげることが成功の鍵です。

静かに生活できる場所を用意する

まずはオスとメスを別々のケージに入れるなどして、お互いの存在に慣れさせるところから始めます。メス猫が威嚇しなくなったら、少しずつ同じ空間で過ごさせて様子を見ましょう。猫の交尾は相性が重要なので、焦らず見守る姿勢が大切です。メスがストレスを感じないよう、隠れる場所や逃げ場を用意してあげてください。

交尾は数回行う

無事に交尾が成功したら、一度オスとメスを離して休ませます。体力が回復したら、再度交尾をさせることで妊娠の確率を高めることができます。一般的には2〜3回の交尾が推奨されます。

猫の気持ちに寄り添うことが大切

猫の発情は子孫繁栄のための本能的な行動ですが、普段と違う鳴き声や行動に、飼い主さんは驚き、戸惑うかもしれません。

発情期の猫は非常にデリケートでストレスを感じやすくなっています。まずは発情の仕組みを正しく理解し、大きな声で鳴いても叱ったりせず、愛猫の気持ちに寄り添ってあげることが大切です。

そして、もし繁殖を望まない場合は、愛猫の健康と穏やかな生活のために、適切な時期に避妊・去勢手術を行うことが、飼い主としてできる愛情表現の一つと言えるでしょう。

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