愛犬(メス)の健康を守るため、多くの飼い主様が「避妊手術」を選択しています。避妊手術は望まない妊娠を防ぐだけでなく、命に関わる可能性のある生殖器系の病気を予防する上で非常に効果的です。
しかし、具体的にどのような病気のリスクを減らせるのか、詳しくご存じでない方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、メスの犬に多い代表的な3つの生殖器の病気「子宮蓄膿症」「乳腺腫瘍」「卵巣腫瘍」について、その症状や原因、そして避妊手術による予防効果を詳しく解説します。愛犬に長く健康でいてもらうために、ぜひ最後までご覧ください。
1.子宮蓄膿症
子宮蓄膿症とは?命に関わる危険な病気
子宮蓄膿症とは、メス犬の子宮内に大腸菌などの細菌が感染し、膿が溜まってしまう非常に危険な病気です。特に避妊手術をしていない中高齢の犬に多く見られます。
子宮蓄膿症は、膿の排出経路の有無によって「開放性」と「閉鎖性」の2つのタイプに分けられ、それぞれ注意すべき点が異なります。
開放性
外陰部から膿が排出されるため、飼い主様が異常に気づきやすいタイプです。愛犬が陰部を頻繁に舐めている場合は、膿が出ていないか確認し、早めに動物病院を受診しましょう。
閉鎖性
子宮内に膿が溜まり続けるため、外からは異常が分かりにくい危険なタイプです。発見が遅れ、気づいたときには重症化しているケースも少なくありません。後述する症状やお腹の膨らみに注意し、少しでも異変を感じたら、すぐに動物病院へ連れて行くことが重要です。
子宮蓄膿症の主な症状
- 水を飲む量や回数が異常に増える(多飲)
- おしっこの量や回数が異常に増える(多尿)
- 食欲がなくなる、または全く食べない
- 元気がなく、ぐったりしている
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- お腹が張ってパンパンに膨らむ
病状が悪化すると溜まった膿で子宮が破裂し、腹膜炎や敗血症といった命に関わる状態に陥ります。最悪の場合、死に至ることもあるため、日頃から愛犬の様子を注意深く観察することが大切です。
子宮蓄膿症の原因
発情後のホルモンバランスの変化により、子宮の免疫力が低下することが主な原因です。免疫力が落ちた子宮内に大腸菌やブドウ球菌などが侵入・増殖することで発症します。避妊手術をしていない6歳以上の犬は、特に発症リスクが高まるため注意が必要です。
治療法と予防策
治療の第一選択は、膿が溜まった子宮と卵巣を摘出する外科手術です。状態によっては、まず抗菌薬で内科的な治療を行うこともあります。
最も効果的な予防策は「避妊手術」です。若いうちに避妊手術で子宮と卵巣を摘出しておけば、子宮蓄膿症になるリスクを完全に取り除くことができます。
2.乳腺腫瘍
乳腺腫瘍とは?
乳腺腫瘍は、犬の乳腺組織にできる腫瘍(しこり)のことで、メス犬に最も多く発生する腫瘍の一つです。発生する乳腺腫瘍のうち、約50%が良性、残りの50%が悪性(乳がん)とされています。
悪性の乳腺腫瘍は、肺や脇、股関節付近のリンパ節に転移しやすく、命を脅かす危険性があります。特に10歳以上の高齢犬での発症が多く見られます。
乳腺腫瘍の主な症状
- 胸やお腹、足の付け根あたりに小さなしこりができる
- しこりが赤く腫れたり、熱を持ったりする
初期の乳腺腫瘍は、小さなしこりとして現れます。悪性の場合、しこりが急激に大きくなったり、皮膚が破れて出血や膿が出たりする(自壊)こともあります。日頃から体を撫でる際にしこりがないかチェックする習慣をつけましょう。
乳腺腫瘍の原因
乳腺腫瘍が発生する明確な原因は解明されていませんが、発情に関わる女性ホルモンが長期間にわたって乳腺組織を刺激し、腫瘍化を促すと考えられています。
治療法と予防策
治療は、腫瘍とその周辺の乳腺組織を切除する外科手術が基本となります。悪性で転移のリスクがある場合は、抗がん剤などを用いた化学療法を併用することもあります。
乳腺腫瘍の最も効果的な予防策は「早期の避妊手術」です。研究では、初回発情前に避妊手術を行うと、乳腺腫瘍の発生率を99.5%も抑えられると報告されています。手術の時期が遅れるほど予防効果は低下するため、獣医師と相談の上、早期の避妊手術を検討することをおすすめします。
3.卵巣腫瘍
卵巣腫瘍とは?発見が難しい病気
卵巣腫瘍は、その名の通りメス犬の卵巣に発生する腫瘍です。この病気の怖い点は、初期段階ではほとんど症状が見られないため、発見が遅れがちになることです。
腫瘍がかなり大きくなってから、ようやく体調の変化として現れることが多く、気づいたときには進行しているケースも少なくありません。
卵巣腫瘍の主な症状
卵巣腫瘍は、進行するまでほとんど無症状です。
進行すると、以下のような様々な症状が見られるようになります。
- 元気や食欲がなくなる
- お腹が膨らんでくる
- 左右対称性の脱毛
- 外陰部からの持続的な出血
- 発情周期の異常
また、卵巣腫瘍が原因でホルモンバランスが崩れ、二次的に「子宮蓄膿症」を発症することもあるため注意が必要です。
卵巣腫瘍の原因
卵巣腫瘍の正確な原因はわかっていませんが、排卵を繰り返すことで卵巣がダメージを受け、細胞ががん化するリスクが高まると考えられています。また、遺伝的要因や加齢による免疫力の低下も関与している可能性があります。
治療法と予防策
転移がなければ、卵巣と子宮を摘出する外科手術を行います。悪性の場合は、手術後に転移がないか定期的な検診で経過を観察していくことが重要です。
卵巣腫瘍の最も確実な予防策は「避妊手術」です。手術で卵巣そのものを摘出するため、卵巣腫瘍の発生を100%防ぐことができます。症状が出にくい病気だからこそ、予防が最善策と言えます。また、定期的な健康診断(特に超音波検査)も早期発見に繋がります。
避妊手術は愛犬のための健康への投資
今回は、メスの犬に多い3つの生殖器の病気「子宮蓄膿症」「乳腺腫瘍」「卵巣腫瘍」について解説しました。
これらの病気は、いずれも命に関わる可能性がありますが、「避妊手術」によってそのリスクを大幅に、あるいは完全になくすことができます。
避妊手術には費用がかかりますが、病気を発症してからの治療費や、なにより愛犬が受ける身体的な苦痛を考えると、非常に有効な健康への投資と言えるでしょう。
vet監修獣医師先生
愛犬の健康な未来を守るため、そして飼い主様が安心して暮らすためにも、避妊手術についてかかりつけの動物病院に相談してみてはいかがでしょうか。

