愛犬の元気がない、散歩に行きたがらない…もしかしたらそれは貧血のサインかもしれません。犬の貧血は症状が分かりにくく、飼い主さんが気づかないうちに進行してしまうことも少なくありません。
この記事では、犬の貧血について、見逃しやすい症状から考えられる原因、ご家庭での対処法や予防策までを詳しく解説します。
犬の貧血、どんな症状?
元気がなくなる
散歩や運動を嫌がる
口内の粘膜(歯茎など)が白くなる
おしっこが赤茶色になる
うんちが黒くなる
犬が貧血になると、体中に酸素を運ぶ赤血球が不足するため、様々な症状が現れます。飼い主さんが気づきやすい犬の貧血の主な症状としては、「元気がなくなる」「散歩や運動を嫌がる」といった活動量の低下が挙げられます。また、口の中を見て歯茎や舌の色が普段のピンク色から白っぽくなっている場合も貧血のサインです。さらに症状が進行すると、「呼吸が早くなる」「ふらつく」「食欲が落ちる」といった様子が見られることも。尿が赤茶色になったり、便が黒いタール状になったりする場合は、体内で出血が起きている可能性があり、特に注意が必要です。
犬の貧血、原因は?
溶血性貧血(赤血球が壊される)
再生不良性貧血(血液が作られない)
出血(外傷や体内出血)
中毒(タマネギなど)
寄生虫(ノミ・マダニなど)
犬の貧血を引き起こす原因は一つではありません。様々な病気や要因が考えられます。ここでは、犬の貧血の主な原因として考えられる5つのケースについて解説します。
原因その1:溶血性貧血
溶血性貧血は、血液中の赤血球が何らかの原因で破壊されることで発症します。
赤血球は肺から得た酸素を全身の細胞に供給する重要な役割を担っています。赤血球が破壊されると酸素を運ぶ能力が低下し、全身が酸欠状態に陥って貧血になります。免疫の異常で自身の赤血球を攻撃してしまう「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」が代表的です。
原因その2:再生不良性貧血
再生不良性貧血は、赤血球を作る骨髄の機能が低下し、血液そのものが正常に作られなくなることで発症します。
血液の供給が追いつかなくなるため、貧血を起こします。慢性腎臓病や特定の薬の副作用などが引き金になることがあります。
原因その3:出血
怪我による外傷だけでなく、胃腸の腫瘍や潰瘍など、体内で起きた出血が原因で貧血になることもあります。血液の量が物理的に減少することで貧血状態に陥ります。
原因その4:中毒
玉ねぎやニラなどに含まれるアリルプロピルジスルファイドという成分が赤血球を破壊することで玉ねぎ中毒を発症し、貧血の症状が表れます。
犬に玉ねぎが危険であることは広く知られてきましたが、ハンバーグや香味野菜など加工食品に含まれるものを誤って与えてしまうケースもあるため注意が必要です。
原因その5:寄生虫
ノミ・マダニ・バベシアなどの寄生虫が原因で貧血になることもあります。
ノミやマダニの場合は大量に寄生して吸血されることによる血液量の減少で発症します。バベシアの場合は、マダニから媒介される原虫が赤血球に寄生して破壊することで重度の貧血を引き起こします。
犬の貧血、発症しやすい犬はいる?
オールドイングリッシュシープドッグ
アメリカンコッカースパニエル
イングリッシュコッカースパニエル
プードル
アイリッシュセッター
コリー
犬の貧血はどんな犬種でも起こり得ますが、特定の病気が原因となる貧血については、発症しやすい傾向のある犬種が知られています。例えば、自己免疫性の溶血性貧血は「オールドイングリッシュシープドッグ」「アメリカンコッカースパニエル」「プードル」などが挙げられます。
また、「ビーグル」「ウェストハイランドホワイトテリア」「ダックスフント」「チワワ」「パグ」「プードル」などは、赤血球を正常に保つために必要な酵素が先天的に欠損している「ピルビン酸キナーゼ欠損症」による溶血性貧血を発症しやすいことで知られています。
上記の犬種以外でも、犬の貧血のリスクは常にあります。特に、ノミやマダニの予防を定期的に行っていない犬は、寄生虫が原因の貧血を発症するリスクが高まるため注意が必要です。
犬の貧血、発症してしまった場合の対処は?
犬に貧血の症状が見られた場合、飼い主さんの自己判断は非常に危険です。原因によって対処法が全く異なるため、まずはかかりつけの動物病院で診察を受けることが最も重要です。ここでは、原因ごとの一般的な治療法について解説します。
溶血性貧血
溶血性貧血が疑われる症状が見られたら、早急にかかりつけの動物病院で診てもらうことが大切です。
貧血だからと放置していると、黄疸や肝機能障害、腎不全など深刻な事態に悪化する危険もあります。
治療法としては、免疫抑制剤などを用いる内科療法を施し安静にする「内科治療」、原因によっては脾臓を摘出する「外科治療」、重度の場合は「輸血」などが行われます。
再生不良性貧血
再生不良性貧血は、原因の特定が難しく、根治的な治療法が確立されていないのが現状です。
しかし、輸血や造血剤、免疫抑制剤などによる対症療法で症状を緩和し、QOL(生活の質)を維持することを目指します。放置すると重度の貧血に進行するため、できるだけ早く動物病院で相談しましょう。
出血
貧血を起こすほど外傷による出血がひどい場合は、早急に動物病院に連れていき止血などの処置を受けてください。
「おしっこが赤い」「うんちが黒い」場合は、消化管など体内での出血が原因の貧血になっている可能性があるため、こちらも速やかな受診が必要です。
中毒
玉ねぎ中毒は、犬の体重や食べた量によって症状が出ない場合や軽い場合もありますが、命を落とすケースも少なくありません。誤食が分かった時点で、すぐに動物病院に連絡し指示を仰ぎましょう。
寄生虫
ノミやダニが原因の場合は、病院で診察を受け駆除薬を処方してもらうことが基本です。
ただし、マダニが媒介するバベシア症が原因の場合、治療が遅れると命に関わります。飼い主さんが独自に判断するのは危険なため、まずは動物病院で原因を特定してもらうことが大切です。
犬の貧血、どんな検査が必要?
問診・身体検査
血液検査
画像検査(レントゲン・エコー)
骨髄検査
動物病院では、犬の貧血の原因を特定するために、いくつかの検査を組み合わせて行います。正確な診断が、適切な治療への第一歩となります。
検査1:問診・身体検査
貧血で受診すると、まず問診と身体検査を行います。飼い主さんから最近の様子や食事内容、お出かけした場所などを詳しく聞き取ります。同時に、歯茎の色や心音、リンパ節の腫れなどを確認し、貧血の原因の手がかりを探します。
検査2:血液検査
貧血の診断において最も重要な検査です。赤血球数やヘモグロビン濃度などを測定して貧血の程度を評価するだけでなく、新しい赤血球が作られているか(再生像)を確認することで、貧血の種類(再生性か非再生性か)を判断します。
検査3:骨髄検査
骨髄検査では、血球成分が作られる骨髄を検査します。
血液検査で再生不良性貧血が疑われるなど、詳細な原因がわからない場合に行われる精密検査で、血球成分がきちんと作られているのかを評価します。
犬の貧血を予防するには?
全ての貧血を完全に予防することは難しいですが、飼い主さんの日頃のケアでリスクを減らせるものもあります。愛犬を貧血から守るための予防法をご紹介します。
犬の貧血予防で最も大切なのは、原因となる要素を日常生活から取り除くことです。中毒を起こすタマネギなどの食材を食べさせないための誤食防止、そしてノミ・マダニを寄生させないための定期的な予防薬の投与が必須です。
また、軽度の貧血では症状に気づきにくいため、定期的な健康診断も非常に重要です。健康な時の血液データを把握しておくことで、いざという時に異常を早期発見できます。
犬の貧血は「なんだか最近元気がないけど、年のせいかな」と見過ごされがちです。しかし、その裏には腫瘍などの重大な病気が隠れている可能性もあります。この記事で紹介した症状が1つでも見られたら、自己判断せずに、すぐに動物病院で診察を受けるようにしてくださいね。