近年、犬の糖尿病が増えていることをご存知でしょうか?大切な愛犬が糖尿病と診断されると、毎日のインスリン注射や食事管理が必要となり、白内障といった合併症を引き起こすリスクも高まります。
この記事では、犬の糖尿病について、その原因や具体的な症状、治療にかかる費用、ご家庭での食事療法やインスリン投与の方法、そして発症前にできる予防・対策について詳しく解説します。
犬の糖尿病、原因は?
- 遺伝的要因
- 肥満
- 食生活の乱れ
- 加齢
- 特定の犬種
- 性別(特に避妊手術をしていないメス)
犬の糖尿病は、多くの場合、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を分泌する膵臓(すいぞう)の細胞が破壊され、インスリンを十分に作れなくなることで発症します。これは人間のⅠ型糖尿病に近い状態です。
インスリンが不足する明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、「遺伝」「肥満」「食事」「年齢」「犬種」「性別」といった複数の要因が複雑に関与していると考えられています。
先天的な要因
生まれつき膵臓の機能が弱く、インスリンを正常に分泌できないことが原因で、若くして糖尿病を発症する犬もいます。
肥満
犬の糖尿病の最大の原因ともいえるのが肥満です。糖質や炭水化物を多く含むおやつを過剰に与えたり、運動不足が続いたりすると、インスリンが効きにくい「インスリン抵抗性」という状態に陥り、糖尿病のリスクが非常に高まります。
食事の仕方
一度に大量に食べる「ドカ食い」や「早食い」は、食後の血糖値を急上昇させ、インスリンを大量に分泌させるため膵臓に大きな負担をかけます。この習慣が続くと、インスリンに対する体の反応が鈍くなり、高血糖状態を招いて糖尿病の引き金となります。
年齢
犬も人間と同じように、年齢を重ねると基礎代謝が低下し、筋肉が落ちて脂肪がつきやすくなります。成犬時と同じ食事を続けているとカロリーオーバーになりがちなため、特に7歳以上のシニア期に入ったら、愛犬の活動量に合わせた食事内容に見直すことが重要です。
糖尿病になりやすい犬種
遺伝的に糖尿病を発症しやすいとされる犬種がいます。特に「ビーグル」「プードル」「ダックスフンド」「ミニチュアシュナウザー」などは注意が必要です。これらの犬種は、肥満などの後天的な要因が加わることで、さらに発症リスクが高まります。
性別
統計的に、メス犬はオス犬の約2倍も糖尿病になりやすいという報告があります。中でも、避妊手術をしていないメス犬は、発情周期に伴うホルモンの影響で血糖値が変動しやすく、特に発症リスクが高いことがわかっています。
vet所属獣医師先生
犬の糖尿病、症状は?
犬の糖尿病は、初期段階では症状が分かりにくく、飼い主さんが気づきにくい病気の一つです。以下のようなサインが見られたら、病状が進行している可能性があるため注意が必要です。
犬の糖尿病の初期症状
以下のような症状は、糖尿病の代表的な初期サインです。複数当てはまる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
- 多飲多尿:異常に水をたくさん飲み、おしっこの量や回数が増える。
- 体重減少:食欲旺盛でたくさん食べているのに、なぜか痩せてくる。
- 多食:常にお腹を空かせている様子で、しきりに食べ物を欲しがる。
- 元気消失:なんとなく元気がない、散歩に行きたがらない。
進行すると現れる合併症
犬の糖尿病で最も怖いのが合併症です。治療が遅れると、命に関わる危険な状態に陥ることもあります。
- 白内障:糖尿病の合併症として非常に多く見られます。目の水晶体が白く濁り、進行すると失明に至ります。急激に進行するのが特徴で、「目が白くなった」と受診したら糖尿病だった、というケースも少なくありません。
- 糖尿病性ケトアシドーシス:インスリン不足が深刻化し、エネルギー源として脂肪が分解される際に生まれる「ケトン体」という有害物質が血液中に増加する危険な状態です。ぐったりして食欲がなくなり、嘔吐や下痢、脱水症状などを起こし、昏睡状態に陥ることもあります。緊急治療が必要な状態です。
- 易感染性:免疫力が低下するため、細菌などに感染しやすくなります。特に膀胱炎や皮膚炎を繰り返しやすくなります。
vet所属獣医師先生
寿命への影響は?
「食事療法」「運動療法」「インスリン投与」を適切に行い、血糖値を安定させることができれば、糖尿病であっても寿命を全うすることは十分に可能です。しかし、糖尿病性ケトアシドーシスなどの重篤な合併症を発症した場合は、予後が悪くなることもあります。愛犬のわずかな変化を見逃さず、早期発見・早期治療につなげることが何よりも大切です。
犬の糖尿病、治療法はインスリン注射?費用は?
犬の糖尿病の治療は、不足しているインスリンを注射で補い、血糖値をコントロールすることが基本となります。これにより症状を緩和し、合併症を予防します。
治療の基本はインスリン注射
インスリン注射は、ご自宅で飼い主さんが毎日行う必要があります。通常、1日2回、決まった時間の食後すぐに注射します。注射の方法やインスリンの量は、必ず獣医師の指導に従ってください。
【インスリン注射の注意点】
- 量を間違えない:投与量が多すぎると、命に関わる「低血糖」を引き起こします。
- 時間を守る:毎日決まった時間に投与し、血糖値の安定を図ります。
- 注射部位を変える:毎回同じ場所に注射すると皮膚が硬くなるため、少しずつ場所をずらします。
- 食後に投与する:食事を食べていないのに注射をすると低血糖のリスクが高まります。
インスリンの投与量が多すぎたり、食事を摂らずに注射したりすると、血糖値が下がりすぎて「医原性低血糖」という危険な状態に陥ることがあります。意識障害やけいれんを引き起こすため、細心の注意が必要です。
治療にかかる費用
犬の糖尿病の治療費用は、動物病院や犬の体の大きさ(インスリン使用量)によって異なりますが、インスリン注射や定期的な検査を含め、月々2万円~3万円程度が目安となります。生涯にわたる治療となるため、継続的な費用を見込んでおく必要があります。
vet所属獣医師先生
犬の糖尿病、食事や運動はどうするの?
インスリン治療と並行して、食事と運動の管理も血糖コントロールに不可欠な要素です。
犬の糖尿病における食事療法
食事療法の目的は、食後の血糖値の急上昇を抑えることです。
- 療法食を基本とする:獣医師から処方される糖尿病用の療法食が最もおすすめです。食物繊維が豊富で、糖質の吸収を穏やかにするよう調整されています。
- フードの種類に注意:療法食を食べない場合でも、糖分が多く含まれる半生タイプのフードは避け、ドライフードを選びましょう。
- 時間と量を一定に:毎日決まった時間に、決まったカロリーの食事を与えることが血糖値を安定させる鍵です。
犬の糖尿病における運動療法
適度な運動は、糖の消費を促し、血糖コントロールを助けます。毎日同じ時間帯に、同じくらいの強度の運動(散歩など)を継続するのが理想です。ただし、日によって運動量が極端に変わると、低血糖を引き起こす危険性もあります。運動療法についても、必ず獣医師の指導のもとで行うようにしてください。
気になる初期症状は獣医師に相談してみる
「最近、愛犬の様子がいつもと違う…」飼い主さんだからこそ気がつく糖尿病の初期症状を、決して見過ごさないでください。「水を飲む量が増えた」「食欲はあるのに痩せてきた」といった些細な変化でも、病気のサインかもしれません。
可能であれば、普段の様子がわかる動画などを撮影したうえで、ためらわずに動物病院で獣医師に相談しましょう。
犬の糖尿病、対策するには?
犬の糖尿病を予防するために、日常生活でできる対策はたくさんあります。一度発症すると生涯付き合っていくことになる病気だからこそ、日頃の管理が重要です。
【犬の糖尿病の予防・対策法】
- 適正体重の維持:肥満は糖尿病の最大のリスクです。毎日の散歩などで適度な運動をさせ、太らせないようにしましょう。
- 適切な食事管理:食事はきちんと計量し、与えすぎに注意します。おやつを与える場合は、その分主食の量を減らし、1日の総摂取カロリーを管理することが大切です。
- 避妊手術:メス犬の場合、若いうちに避妊手術を受けることで、ホルモンの影響による糖尿病のリスクを下げることができます。ただし、術後は太りやすくなる傾向があるため、より一層の食事管理が必要です。
愛犬に健康で長生きしてもらうためにも、糖尿病は避けたい病気です。普段から愛犬の健康状態をよく観察し、もし糖尿病が疑われる症状が見られたら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。