犬のよだれには、体温調節や口の中を清潔に保つ、消化を助けるといった大切な働きがあります。
愛犬が舌を出してよだれを垂らしている姿は可愛らしいものですが、そのよだれがいつもと違う状態であれば、何らかの病気のサインかもしれません。普段との違いに気づくことが、愛犬の健康を守る第一歩です。
この記事では、犬のよだれについて、注意すべき症状、考えられる原因や病気、ご家庭での対処法や動物病院での検査まで詳しく解説します。
犬のよだれ、どんな症状?
犬は人間のように全身で汗をかくことができず、汗腺が足の裏などにしかありません。そのため、舌を出して唾液を蒸発させる「パンティング(あえぎ呼吸)」によって体温を調節しています。
美味しいごはんを目の前にした時や、リラックスしている時に出るよだれは生理的なもので心配ありません。しかし、以下のような症状が見られる場合は、病気のサインである可能性が高いため、注意深く観察しましょう。
- 泡状のよだれ:白やピンクがかった泡を吹いている
- 血が混じる:よだれに血が混じっていたり、ピンク色や茶色がかっていたりする
- 強い臭い:普段と違うアンモニア臭や腐敗臭など、きつい口臭がする
- 異常に多い量:常に口からよだれが垂れ流しになっている、床が濡れるほど多い
犬のよだれ、原因は?
- 咽頭炎
- 胃拡張・胃捻転
- 熱中症
犬のよだれが普段と違う場合、その原因として口の中の問題から全身性の病気まで、様々な可能性が考えられます。特に注意したいのが「咽頭炎」「胃拡張・胃捻転」「熱中症」です。
原因1:咽頭炎
咽頭炎は、ウイルスや細菌の感染、異物の誤飲、刺激性のあるガス(タバコの煙など)の吸引によって喉の奥にある咽頭が炎症を起こす病気です。
喉の痛みから食べ物や唾液を飲み込むことが困難になり、結果として大量のよだれが出ます。その他、「咳をする」「食欲が落ちる」「喉やリンパが腫れる」といった症状が見られることもあります。
原因2:胃拡張・胃捻転
胃拡張・胃捻転は、胃がガスや食べ物で膨れ上がり(胃拡張)、さらにねじれてしまう(胃捻転)非常に危険な病気です。特に胸の深い大型犬に多く見られます。
胃がねじれることで吐きたくても吐けない状態になり、「大量のよだれ」や「何度もえずく(吐く素振りをする)」、「お腹が膨れる」、「落ち着きなくウロウロする」といった症状が現れます。命に関わる緊急性の高い病気です。
原因3:熱中症
熱中症は、高温多湿な環境に長時間いることで体温調節が追いつかなくなり、急激に体温が上昇してしまう状態です。
体温を下げようと激しくパンティング(あえぎ呼吸)するため、大量のよだれが出ます。症状が進行すると、「ぐったりして動かない」「歯茎の色が悪い(紫色など)」「嘔吐や下痢」「けいれん」などを起こし、命の危険があります。
犬のよだれ、発症しやすい犬種はいる?
犬種によっては、体の構造上、生理的によだれが出やすい子がいます。例えば、マズル(鼻先)が短い「短頭種」や、唇がたるんでいる「大型犬」がそれに当たります。これは病気ではないため過度な心配は不要ですが、普段のよだれの量を把握しておくことが大切です。
短頭種
- シーズー
- ペキニーズ
- パグ
- フレンチ・ブルドッグ
- ボストン・テリア
- ボクサー など
大型犬
- ニューファンドランド
- セント・バーナード
- グレート・デーン
- マスティフ
- ブラッドハウンド など
犬のよだれ、発症してしまった場合の対処は?
咽頭炎の場合
咽頭炎が疑われる場合は、まず動物病院で原因を特定してもらうことが重要です。原因となっている病気(感染症など)の治療を優先します。
治療法としては、抗生剤や消炎剤などの投薬、喉の潤いを保つためのネブライザー療法(霧状の薬を吸入させる治療)などが行われます。異物が原因の場合は、その除去が必要です。
胃拡張・胃捻転の場合
胃拡張・胃捻転は一刻を争う緊急疾患です。疑わしい症状が見られたら、ためらわずに夜間救急を含め、すぐに動物病院へ連絡し、指示を仰いでください。
予防としては、早食いを防ぐ食器を使ったり、食事の回数を1日2〜3回に分けたりすることが有効です。また、食後すぐの激しい運動は避け、ゆっくり休ませてあげましょう。
熱中症の場合
熱中症も緊急を要する状態です。すぐに動物病院へ向かうことが最優先ですが、移動中に応急処置を行いましょう。
涼しい場所へ移動させ、濡らしたタオルで体を包んだり、水道水をかけたりして体温を下げます。保冷剤をタオルで包み、首の周りや脇の下、足の付け根など太い血管が通っている場所を冷やすのも効果的です。意識があれば、水分補給もさせてあげましょう。
犬のよだれ、どんな検査が必要?
- 視診・触診
- レントゲン検査
- 内視鏡検査
検査1:視診・触診
まずは獣医師が犬の全体的な様子(元気、意識レベルなど)を確認し、よだれの状態(量、色、臭い、粘り気など)を観察します。口の中を直接見て、歯や歯茎の状態、腫れや傷、異物の有無などを触診で確認することもあります。
検査2:レントゲン検査
X線を使って、体の内部を画像化する検査です。喉や食道に異物が詰まっていないか、胃拡張・胃捻転が起きていないか、胸部に異常がないかなどを確認するために行われます。
検査3:内視鏡検査
先端にカメラがついた細い管(内視鏡)を口や鼻から挿入し、食道や胃、十二指腸の内部を直接モニターで観察する検査です。炎症や潰瘍、腫瘍の有無を確認したり、小さな異物であればそのまま取り除いたりすることも可能です。
犬のよだれ、対策するには?
生理的なよだれを完全になくすことはできませんが、病気が原因で起こるよだれは、日頃のケアや環境整備によって予防できる場合があります。
愛犬の健康を守るために、飼い主さんができる対策をいくつかご紹介します。
- 誤飲事故を防ぐ:犬が口にしそうな小さな物や危険な物は、犬の手の届かない場所に片付けましょう。
- 熱中症対策を徹底する:夏場の散歩は涼しい時間帯に行い、室内ではエアコンを活用して適切な温度・湿度を保ちましょう。車内放置は絶対にしないでください。
- 食事管理を見直す:早食い防止用の食器を使ったり、食事を複数回に分けたりして、胃捻転のリスクを減らしましょう。
- 口内環境を清潔に保つ:定期的な歯磨きで、歯周病を予防することもよだれの異常に繋がる口内トラブルを防ぎます。
おかしいと思ったら病院へ!
犬のよだれは日常的な現象ですが、その裏には命に関わる重大な病気が隠れている可能性も少なくありません。
「いつもと違うな」と感じたら、それは愛犬からの大事なサインです。「たかがよだれ」と軽視せず、少しでも不安な点があれば、かかりつけの動物病院に相談し、診察を受けるようにしましょう。早期発見・早期治療が愛犬の健康を守る鍵となります。