愛犬の様子がおかしい、もしかしてヘルニアかも?と不安に思っていませんか。犬のヘルニアは、発症する場所によって様々な種類と症状があり、特に2〜6歳の犬に起こりやすい病気の一つです。
この記事では、獣医師監修のもと、犬のヘルニアの代表的な5つの種類ごとの症状、原因、治療法、手術費用、そして日常生活でできる対策について、詳しく解説します。
犬のヘルニア、種類や症状は?
犬のヘルニアは、原因や発症部位によって主に5つの種類に分けられます。それぞれの特徴と主な症状を理解しておきましょう。
1. 鼠径 ヘルニア
犬の足の付け根(鼠径部)の隙間から、お腹の中にあるはずの臓器(腸や膀胱、子宮など)が皮膚の下に飛び出してしまう状態が鼠径ヘルニアです。生まれつき隙間が閉じない先天性のものと、事故などの外傷が原因で起こる後天性のものがあります。飛び出した臓器が締め付けられると、腸閉塞や排尿障害などを引き起こし、命に関わることもあるため注意が必要です。
2. 臍 ヘルニア
いわゆる「でべそ」のように、おへそがぽっこりと膨らむのが特徴のヘルニアです。おへその穴が完全に閉じなかったために、その隙間からお腹の中の脂肪や臓器が飛び出して発症します。大きさはくるみ大からリンゴ大まで様々です。鼠径ヘルニアと同様、腸がはまり込み血流が滞る「嵌頓(かんとん)」を起こすと腸閉塞などを併発する危険性があるため、発見したら獣医師に相談することが重要です。主に小型犬で発症しやすい傾向があります。
3. 会陰 ヘルニア
去勢をしていないシニア期のオス犬に多く見られる病気で、肛門の周りにある筋肉が男性ホルモンの影響で弱くなることが主な原因です。弱くなった筋肉の隙間から、直腸や膀胱などの臓器が肛門の脇に飛び出し、お尻の周りが片側または両側が膨らみます。主な症状として便秘やしぶといきばり(排便困難)が見られ、膀胱が飛び出した場合は排尿障害を引き起こすこともあります。
4. 食道裂孔ヘルニア
胸とお腹を隔てている横隔膜には、食道が通るための穴(食道裂孔)があります。この穴から胃の一部が胸の中に飛び出してしまうのが食道裂孔ヘルニアです。先天的に穴が大きい場合に起こることが多いですが、加齢や肥満、慢性的な咳が原因となることもあります。主な症状は、食後の吐き戻しや頻繁な嘔吐、胃液の逆流による逆流性食道炎などです。
5. 椎間板 ヘルニア
上記4つとは異なり、臓器が飛び出すのではなく、背骨(脊椎)の骨と骨の間にあるクッション(椎間板)に問題が起こる病気です。激しい運動や加齢などによって椎間板が損傷すると、中にある髄核(ずいかく)というゲル状の組織が飛び出して脊髄神経を圧迫します。これにより、背中の痛みや足の麻痺、排泄のコントロールが困難になるなどの神経症状を引き起こします。
vet監修獣医師先生
犬のヘルニア、治療法は?
犬のヘルニアの治療法は、種類や症状の重症度によって「内科治療」と「外科手術」に大別されます。
鼠径ヘルニア
症状が軽度であれば経過観察となることもありますが、根本的な治療には外科手術が必要です。飛び出した臓器を元の位置に戻し、隙間を縫合して塞ぎます。特に、妊娠や肥満で悪化するリスクがある場合や、腸や膀胱などがはまり込んでいる(嵌頓)場合は、緊急手術の対象となります。
臍ヘルニア
子犬の頃に発症した場合、成長とともに自然に穴が閉じることもあります。しかし、穴が大きい場合や自然に閉じない場合は外科手術が推奨されます。特に、腸がはまり込み血流が滞る「嵌頓」を起こした場合は、命の危険があるため緊急手術が必要です。避妊・去勢手術の際に同時に整復手術を行うことも多くあります。
会陰ヘルニア
治療は、飛び出した臓器を元の位置に戻し、弱くなった筋肉の隙間を塞ぐ外科手術が基本です。未去勢のオス犬は再発リスクが高いため、ヘルニアの手術と同時に去勢手術を行うことが強く推奨されます。
食道裂孔ヘルニア
症状が見られる場合は外科手術による治療が基本となります。胸の中に飛び出た胃をお腹の中に戻し、広がった食道裂孔を縫い縮めて再発を防ぎます(逆流防止手術)。近年では、体に負担の少ない内視鏡(胸腔鏡・腹腔鏡)を用いた手術が行われることも増えています。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアの治療は、症状の重さを示す5段階のグレードによって判断されます。グレード1〜2(痛みや軽度のふらつき)では、ケージレスト(絶対安静)や痛み止めなどの内科治療が中心です。一方、グレード3以上(足の麻痺など)では、神経の圧迫を取り除くための外科手術が検討されます。手術後はリハビリテーションが必要になることもあります。
犬のヘルニア、手術費用は?
犬のヘルニアの治療費は、種類や症状の重さ、動物病院によって大きく異なります。ここに記載する費用はあくまで目安とし、必ず事前にかかりつけの動物病院に確認しましょう。
- 臍ヘルニア:約3万〜5万円(検査・入院費込み)
- 鼠径ヘルニア:約4万〜10万円(開腹を伴うため比較的高額)
- 会陰ヘルニア:約7万円~(手術の難易度により変動)
- 食道裂孔ヘルニア:約4万円~(手術の難易度により変動)
- 椎間板ヘルニア:
- 内科治療:数千円〜数万円(診察、投薬、レーザー治療など)
- 外科手術:約20万〜35万円(高額な場合は50万円を超えることもあります)
犬のヘルニア、対策は?
ヘルニアの中には、日頃の生活で予防・対策ができるものもあります。愛犬のために飼い主ができることを知っておきましょう。
- 鼠径ヘルニア・臍ヘルニア
先天的な要因が多いため、確実な予防法はありません。しかし、お腹を撫でる際などに足の付け根やおへそ周りに異常な膨らみがないかを日頃からチェックすることで、早期発見に繋がります。 - 会陰ヘルニア
男性ホルモンが関与しているため、若いうちに去勢手術を受けることが最も効果的な予防法です。シニア犬になってからでは体力的な問題で手術が難しくなるケースもあります。 - 食道裂孔ヘルニア
こちらも先天的な要因が大きく予防は困難です。頻繁な嘔吐や吐き戻しといった症状が見られたら、この病気の可能性も考え、早めに動物病院を受診しましょう。 - 椎間板ヘルニア
遺伝的になりやすい犬種もいますが、日常生活での対策が非常に重要です。- 肥満の防止:適正体重を維持し、背骨への負担を減らす。
- 激しい運動を避ける:ソファからの飛び降り、急なダッシュやジャンプ、階段の頻繁な昇り降りは避ける。
- 滑らない床環境:フローリングにはマットやカーペットを敷く。
- 正しい抱き方:背骨が地面と水平になるように体を支えて抱っこする。
vet監修獣医師先生
犬のヘルニアを早期発見するにはスキンシップ!
犬のヘルニアは、種類によっては手術が必要となり、治療費が高額になるケースも少なくありません。万が一の時に備え、ペット保険への加入を検討するのも一つの選択肢です。
しかし、何よりも大切なのは病気の早期発見・早期治療です。これにより、愛犬の苦痛を最小限に抑え、治療の選択肢も広がります。毎日体を撫でたり、抱っこしたりするスキンシップの時間は、愛犬の体をチェックする絶好の機会です。「いつもと違う膨らみはないか?」「痛がる場所はないか?」など、日頃から愛犬の小さな変化に気づいてあげることが、ヘルニアから愛犬を守る第一歩となります。