はじめに

犬・猫のBUNとクレアチニンは、主に糸球体濾過量(GFR)の減少を推定するために測定している。

腎臓の中に糸球体障害、腎臓血行動態異常、ネフロン内閉塞などが存在する場合はGFRの減少が起こるが、近位尿細管上皮傷害、尿細管間質障害などは直接的なGFR減少の原因とはならない。

BUNやクレアチニンの値に変化が認められるのは、腎機能が通常の約25%以下になってからである。

また、腎臓には残りのネフロンが活発に働くことによりGFRを維持しようとする代償機能が存在するため、BUNやクレアチニンによる腎機能評価には限界があることを把握しておくべきである。

BUNやクレアチニンは尿中の他、消化管内や唾液にも分泌排泄されている。

犬と猫のBUN(血中尿素窒素)

BUNは肝臓でアンモニアから合成され、糸球体でその全てが濾過され排泄される。

一部は尿細管で受動的に再吸収される(単純な拡散)。

犬に全血を飲ませた実験では12時間後にBUNの値はピーク(最大で+30 mg/dL程)を迎え、ベースラインに戻るまでに24時間かかった(Yuile CL. Am J Med Sci. 1941.)。

BUN上昇の鑑別

高窒素血症

  • 腎前性高窒素血症
  • 腎性高窒素血症
  • 腎後性高窒素血症

産生増加

  • 消化管出血(Prause LC. Vet Clin Pathol. 1998.)
  • 高蛋白食

異化亢進

  • 体温上昇の持続
  • テトラサイクリン
  • 火傷
  • 感染症
  • 飢餓
  • 甲状腺機能亢進症(Broussard JD. J Am Vet Med Assoc. 1995.)

BUN低下の鑑別

  • 肝機能不全:肝硬変や門脈体循環シャント
  • アイリッシュウルフハウンドの尿素回路酵素欠損症
  • 過剰水和/多飲多尿
  • 低蛋白食/蛋白質吸収不良/栄養失調
  • 妊娠

犬と猫のクレアチニン(Cre)

クレアチニンは骨格筋、心筋、脳などに存在するクレアチン/クレアチンリン酸の老廃代謝産物である。

余談であるがクレアチンをクレアチンリン酸へ代謝(リン酸化)する物質がクレアチンキナーゼ(CKまたはCPK)である。

筋肉量に変化がなければ常に一定量が産生され、糸球体でその全てが濾過され排泄される。

BUNと異なりネフロンで再吸収されない。

犬ではわずかに尿細管にてクレアチニンの分泌が行われているが(O’Connell JMB. Am J Physiol. 1962.)、犬のクレアチニンクリアランスはイヌリンクリアランスとほぼ等しい(杉本哲郎, トキシコロジー, 2009)。

猫ではクレアチニンの分泌は行われない(Finco DR. Am J Vet Res. 1982.)。

クレアチニン上昇の鑑別

  • 高窒素血症
  • 犬では生肉や調理済みの肉を与えることで最大12時間クレアチニンが上昇すると報告されている(Watson AD. Am J Vet Res. 1981.)。
  • 筋肉量や犬種にかなり影響される(Hall JA. J Vet Intern Med. 2015.)
  • 仔犬から成犬にかけて上昇する(Braun JP. Vet Clin Pathol. 2003.)
  • 生後8週齢までの猫(Levy JK. J Am Vet Med Assoc. 2006.)
  • グレイハウンド(Feeman WE. Vet Clin Pathol. 2003.)
  • バーマン(Paltrinieri S. J Feline Med Surg. 2014.)

クレアチニン低下の鑑別

  • 筋肉量低下
  • 仔犬
  • 過剰水和
  • 低蛋白血症

犬と猫の高窒素血症

BUNとクレアチニンは共に窒素原子を含有する化学物質であり、両者または一方の上昇を高窒素血症と呼ぶ。

高窒素血症による臨床症状が現れた状態を尿毒症と呼ぶが、BUNおよびクレアチニン自身は毒性物質ではない。

高窒素血症は腎前性、腎性、腎後性の3つに分類されるが、オーバーラップするため個々の症例をはっきりと3つのいずれかに分類することは難しいこともある。

BUN/Cre比が上昇しやすいのは腎前性高窒素血症、重度の高窒素血症を起こしやすいのは腎性および腎後性高窒素血症である(Finco DR. J Am Vet Med Assoc. 1976.)。

腎前性高窒素血症の場合、原尿の尿細管停滞時間が長くなることでBUNの受動拡散(再吸収)が促進されるためBUN/Cre比が上昇する。また、バソプレシンには集合管でBUNの再吸収を促進する作用がある。

また、高蛋白食や消化管出血では腸内細菌によるNH4+の産生が増加するためBUN/Cre比が上昇する。

腎前性高窒素血症

循環血液量減少、心拍出量低下、末梢神経血管拡張などによる血圧の低下によってGFRが低下した場合を腎前性高窒素血症と呼ぶ。

BUN/Cre比は20を超えることが多い。

腎前性高窒素血症の場合、尿比重は基本的に高い(アジソン病などの尿濃縮を阻害する疾患を除く)。

うっ血性心不全、肝不全、ネフローゼ症候群の様にナトリウム貯蔵状態となるため、尿中へのナトリウム排泄は少ない(Grauer G. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1998.)。

腎前性高窒素血症は原因を取り除くことで急速に改善されるが、長時間持続していた場合には腎傷害を引き起こし腎性高窒素血症へ移行する。

血圧低下の鑑別

  • 循環血液量減少:脱水、出血
  • 心不全
  • 末梢血管拡張:全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、麻酔、迷走神経過緊張、低体温症
  • 膠質浸透圧低下:低アルブミン血症

腎臓血行動態異常

  • NSAIDs
  • ACE-I

腎性高窒素血症

腎機能不全を原因としたGFRの低下を腎性高窒素血症と呼ぶ。

原因を特定することは不可能な場合が多く、問診が重要となる。

急性腎傷害の鑑別

その他の高窒素血症の持続

  • 腎前性高窒素血症
  • 腎後性高窒素血症/水腎症

腎臓梗塞

  • 過剰な腎臓血管収縮
  • 塞栓症:DICなど
  • 血管狭窄
  • 広範囲な皮膚火傷
  • 輸血の有害反応
  • 多血症
  • 過粘稠度症候群

感染症

  • 細菌性腎盂腎炎:心内膜炎、椎間板脊椎炎、子宮蓄膿症(Barsanti JA. Infectious diseases of the dog and cat. ed 3. 2006.)
  • レプトスピラ症
  • ライム病
  • 日本紅斑熱
  • エールリヒヤ症
  • 猫伝染性腹膜炎
  • リーシュマニア症

自己免疫疾患

  • 急性糸球体腎炎
  • 全身性エリテマトーデス
  • 腎移植片拒絶反応
  • 血管炎

構造異常

  • 腎臓リンパ腫
  • 転移性腫瘍
  • アミロイドーシス
  • 低形成/形成不全
  • 腎周囲嚢胞
  • 腎被膜下出血
  • 多発性嚢胞腎

その他

  • 高血圧症
  • 肝腎症候群
  • 溶血性貧血
  • 多臓器不全の一部

薬剤性(Rumbeiha WK. Kirk’s current veterinary therapy XIV. 2009.、Langston CE. Handbook of small animal practice. ed 5. 2007.)

  • 抗生物質:アミノグリコシド系、セファロスポリン系、ペニシリン系、スルホンアミド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、バンコマイシン、カルバペネム系、アズトレオナム、リファンピシン、ナフシリン 、ポリミキシン
  • 抗原虫薬:トリメトプリム-スルファメトキサゾール、スルファジアジン、アルセナミド、ペンタミジン、ジアフェニルスルホン
  • 抗真菌薬:アムホテシリンB
  • 抗ウイルス薬:アシクロビル、ホスカルネット
  • 抗がん剤:シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、アザチオプリン、メトトレキサート
  • 免疫抑制剤:シクロスポリン、インターロイキン-2
  • NSAIDs
  • ACE-I
  • 利尿薬
  • 造影剤
  • その他の薬剤:アロプリノール、シメチジン、アポモルヒネ、デキストラン40、 D-ペニシラミン、 EDTA、ストレプトキナーゼ、メトキシフルラン、三環系抗うつ薬、脂質異常症治療薬、カルシウム拮抗薬、ビタミンD3製剤、リチウム、リン含有尿酸化剤
  • 重金属:水銀、ウラン、鉛、ビスマス塩、クロミウム、ヒ素、金、カドミウム、タリウム、銅、銀、ニッケル、アンチモン
  • 有機物:エチレングリコール、クロロホルム、農薬、除草剤、有機溶剤、四塩化炭素、塩化炭化水素
  • その他の毒:硝酸、ガリウム、ビスホスホネート、キノコ、ブドウ、レーズン、ヘビ毒、ハチ毒、ユリ、ビタミンD3含有殺鼠剤、フッ化ナトリウム、過リン酸石灰肥料
  • 内因性毒素:ヘモグロビン、ミオグロビン

腎後性高窒素血症

腎盤以降の尿路閉塞によるGFRの低下や、尿の腹腔内漏出(尿腹)による高窒素血症を腎性高窒素血症と呼ぶ。

片側性尿路閉塞ではBUNやクレアチニンの上昇は認められないが、0.3 mg/dL程度の軽度のクレアチニン上昇に注目することで発見できることもある。

腎後性高窒素血症は原因を取り除くことで急速に改善されるが、1週間以上持続する場合には腎傷害を引き起こし腎性高窒素血症へ移行する。

SDMA

SDMAはGFRを推定するための新規血中マーカーであり、IRIS(International Renal Interest Society)の慢性腎臓病ガイドライン内でもステージングに用いられている。

SDMA(Symmetric dimethylarginine)と立体異性体であるADMA(asymmetric dimethylarginine)は共に、細胞内でプロテイン-アルギニンメチルトランスフェラーゼのL-アルギニン残基のメチル化より合成されたアルギニンのジメチル化誘導体である。

猫ではSDMAの逆数(1/x)とイオヘキソールクリアランスにより求めたGFR(y)は直線状のグラフを描く(Braff J. J Vet Intern Med. 2014.)。

クレアチニンよりも犬では9ヶ月、猫では17ヶ月早く慢性腎臓病を検出することができる(Yerramilli M. J Vet Intern Med. 2014.、Hall JA. J Vet Intern Med. 2014.)。

筋肉量や食事の影響は少ない(Pedersen LG. Res Vet Sci. 2006.、Hall JA. Vet J. 2014.)。

リンパ腫の犬および猫ではSDMAのみの異常高値を認めることがある(Coyne MJ. Vet Comparative Oncol. 2022.)

腎不全で異常が認められるその他の項目

  • リン:GFRの低下によりリン排泄能が低下し高リン血症を引き起こす。
  • カルシウム:近位尿細管障害、活性型ビタミンD3の低下、アシドーシスは低カルシウム血症を、重度の高リン血症やGFRの低下は高カルシウム血症を引き起こす。
  • カリウム:近位尿細管障害やアルカローシスは再吸収不全による低カリウム血症を、GFR低下や遠位尿細管/集合管での分泌低下、アシドーシスは高カリウム血症を引き起こす。
  • 赤血球:エリスロポエチン産生低下は貧血を引き起こす。消化管出血や脱水を考慮して判断すること。
  • 膵酵素:犬ではリパーゼとアミラーゼが(Polzin DJ. 1983. Am J Vet Res.)、猫ではアミラーゼが(Lulich JP. Compend Contin Educ Small Anim Pract. 1992.)腎不全によって上昇する。
  • pH:尿細管障害は高Cl性代謝性アシドーシスを引き起こす。