犬と猫の総タンパク質(TP)とA/G比

総タンパク質(TP)とは?

総タンパク質(TP)とは、血清または血漿に含まれるアルブミンとグロブリンの総称である。グロブリンとはアルブミンを除くTPの総称であり、抗体や急性相タンパク質などが含まれる。血清TPにはフィブリノーゲンなどの凝固因子が含まれていないため、血漿TPの方が高い値となる。

比重計を用いて測定した場合にはグルコースや脂質が影響するため、重度の高血糖や高脂血症では高い値を示す。機械測定の場合でも溶血や高脂血症では高い値を示す。血清-血漿、比重計-機械測定での誤差は通常0.5 g/dL以内と考えられている。差が1.0 g/dLを超える場合は原因を追究するべきであるが、多くの場合は原因不明である。

TPの内訳は、タンパク電気泳動により分画することができる。電気泳動を行うとタンパク質は分子量や帯電程度によってアルブミン分画、α1、α2、β1、β2、γグロブリン分画に分けることができる。パプトグロビンなど多くの正の急性相タンパクはα1およびα2グロブリン分画(CRPはγグロブリン分画)、IgMと IgAはβ2グロブリン分画、IgGはγグロブリン分画に含まれる。

総タンパク質(TP)まとめ

総タンパク質(TP)= アルブミン(Alb)+グロブリン(Glob)

A/G比とは?

A/G比とはアルブミンとグロブリンの比であり、鑑別疾患を考える上で重要である。

状態 原因
低アルブミン血症 & A/G比正常 TP減少となる疾患
TP上昇 & A/G比正常 脱水による相対的TP増加
TP正常 & A/G比が低下 低アルブミン血症と高グロブリン血症が併発
TP上昇 & A/G比低下 高グロブリン血症

それぞれの鑑別については後述する。

犬と猫の急性相タンパク質

TPを臨床で用いる際に、必ず理解しておかなければならないものが急性相タンパク質である。

急性相タンパク質とは、炎症反応により肝臓での合成量が増加または減少するタンパク質の総称である。白血球増加とは別の機序が関与しているため、炎症により両方が認められることもあれば、片方しか認められないこともある。

C反応性タンパク質(CRP)や血清アミロイドA(SAA)、フィブリノーゲン、ハプトグロビンなど産生が増加するものを正の急性相タンパク質(Eckersall PD. Vet J. 2010.)、アルブミンなど産生が低下するものを負の急性相タンパク質と呼ぶ(Ceron JJ. Vet Clin Pathol. 2005.)。合成量の増加は急激に起こるが炎症が続く限り数ヶ月増加したままであるため、「急性相」という名称は少し間違っている。負の急性相タンパク質は合成が低下してから血中濃度が低下するまでに数日かかる。

急性相タンパク質の分類まとめ
正の急性相タンパク質
C反応性タンパク質(CRP)や血清アミロイドA(SAA)、フィブリノーゲン、ハプトグロビンなど産生が増加するもの
負の急性相タンパク質
アルブミンなど産生が低下するもの

各タンパク質の上昇の程度は動物種で異なるため、臨床的には犬でCRPが、猫でSAAが用いられている。正の急性相タンパク質の上昇は電気泳動にてαグロブリン分画の増加としても観察されるが、正の急性相タンパク質(フィブリノーゲンとハプトグロビンを除く)の増加はTPに影響しない。また、炎症反応による低アルブミン血症は軽度(ベースラインの30%未満)であるため、重度の低アルブミン血症では炎症反応単体が低アルブミン血症の責任病変とはならない。

犬CRP上昇の鑑別

  • 手術を含む外傷(Michelle B Christensen. Acta Vet Scand. 2015.)
  • 感染
  • 腫瘍(横紋筋肉腫を除く)
  • 免疫介在性疾患
  • アジソン病(松木直章. 犬と猫の内分泌疾患ハンドブック第二版. 2019.)
  • 心疾患(M J Reimann. Vet J. 2016. Aleksandra DP. Acta Vet Scand. 2018. Alenka NS. BMC Vet Res. 2021.)
  • 運動後(M Yazwinski. J Vet Intern Med. 2013. Marte EF. Acta Vet Scand. 2016.)
  • 妊娠(Kuribayashi. Exp Anim. 2013.)
犬CRP上昇の鑑別ポイント
  • 血液脳関門内の中枢神経系の疾患ではCRPは上昇しない。
  • 肺を除く気道(鼻腔~気管支)の場合、炎症のみではCRPは上昇しない(腫瘍性疾患では上昇する)。

※アジソン病でCRPは上昇しないとする報告が一般的であるが、非定型の検出には重要だと経験上から筆者も考えている。

参考文献:Nakamura M. J Vet Med Sci. 2008.

猫SAA上昇の鑑別

  • 手術を含む外傷
  • 感染
  • 腫瘍
  • 免疫介在性疾患
  • 糖尿病
  • 甲状腺機能亢進症
  • 腎臓病
  • 心筋症
  • てんかん発作:おそらく犬の運動後のCRP上昇と同じ理由と考えられる。

参考文献:Tamamoto T. J Vet Diagn Invest. 2013.

高アルブミン血症

高アルブミン血症のほとんど全ては、脱水による相対的TP増加である。A/G比は正常であることが多く、赤血球増加や腎前性高窒素血症が同時に見られることが多い。アルブミンの産生亢進による絶対的TP増加は非常に稀であり、ほとんどの場合が検査エラーである。肝細胞癌による産生亢進が報告上存在する(Cooper ES. Vet Clin Pathol. 2009.)。また、グルココルチコイドは高アルブミン血症を起こす場合がある(Harvey JW. Vet Pathol. 1987. Moore GE. Am J Vet Res. 1992. Rothschild MA. Int Rev Physiol. 1980. Campbell J. Can J Physiol Pharmacol. 1968.)。

高アルブミン血症の鑑別

  • 脱水:A/G比正常、赤血球やヘマトクリット値の上昇、BUN上昇(BUN/Cre比上昇)
  • 検査エラー
  • グルココルチコイド
  • 肝細胞癌

犬と猫の低アルブミン血症

重篤な低アルブミン血症(一般的には1.5 g/dL未満)では、血症膠質浸透圧の低下により浮腫や体腔内液体貯留が起こる。しかし、門脈圧亢進を伴う肝不全では軽度の低アルブミン血症でも腹水貯留が起きたり、モノクローナル高γグロブリン血症を伴う消化管型リンパ腫では、重篤な低アルブミン血症でも腹水貯留が起こらない場合がある。

重度な低アルブミン血症は、A/G比が正常なTP減少とA/G比が低下した低アルブミン血症に分類される。しかし、TP減少に慢性炎症が重なるとグロブリンの産生が亢進するためA/G比が低下してくることに注意が必要である{A/G比が低下したタンパク漏出性腸症(Dossin O. Vet Clin Small Anim. 2011.)など}。その場合、病態初期にはTP減少、後期にはアルブミンのみの減少を示す。

総タンパク減少(A/G比正常な低アルブミン血症)の鑑別

  • 負の急性相タンパク質としての軽度のアルブミン低下:ベースラインの30%未満
  • タンパク漏出性皮膚症
  • タンパク漏出性腸症(Craven M. J Small Anim Pract. 2004.)
  • 滲出液:血管炎、胸膜炎、腹膜炎
  • 仔犬/仔猫:成熟個体より低い値を示し、TP 1.0–2.0 g/dL、アルブミン0.5–1.0 g/dLのこともある
  • 出血:メレナ、血様体腔内液体貯留、貧血、消化管出血(BUN上昇)などを確認する
  • 甲状腺機能亢進症:異化亢進
  • 栄養性:吸収不良、消化不良、悪液質
  • 血液希釈:輸液、浮腫を起こす疾患、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群

A/G比の低下している低アルブミン血症の鑑別

  • TP減少(A/G比正常な低アルブミン血症)の鑑別に含まれる疾患
  • 肝不全{先天性血管異常を含む(Allen L. J Am Vet Med Assoc. 1999.)}:BUN低下、グルコース低下、コレステロール低下、ビリルビン上昇、小球性貧血(Simpson KW. J Vet Intern Med. 1997.)などを確認する
  • 糸球体性腎症(Klosterman ES. J Vet Intern Med. 2011.):UPCを測定する。コレステロール上昇、BUN・Cre上昇などを確認する。

犬と猫の高グロブリン血症

出典:Kathleen PF, Stefanie K. Veterinary Clinical Pathology A Case-Based Approach. 2015.
Steven LS, Michael AS. Fundamentals of veterinary clinical pathology. ed 2. 2008.
Richard WN, CG Couto, Small animal internal medicine, ed 6. 2019.

絶対的TP増加のほとんどは高グロブリン血症である。高グロブリン血症はタンパク電気泳動によりポリクローナル高グロブリン血症(スラー型とギザギザ型)、オリゴクローナル高γグロブリン血症、バイクローナル高γグロブリン血症、モノクローナル高γグロブリン血症などに分類される。γグロブリン分画のベースラインの幅がアルブミン分画のベースラインの幅以下の場合、モノクローナル高γグロブリン血症と判断する。臨床上大事なことはそれが腫瘍性増殖(モノクローナルやバイクローナル)なのかそれ以外なのかである。

オリゴクローナル高γグロブリン血症は、原疾患による免疫刺激が比較的同一集団のBリンパ球を刺激した際に生じる。非腫瘍性疾患によるモノクローナル高γグロブリン血症として報告されているものとオリゴクローナル高γグロブリン血症は同義である。

モノクローナル高γグロブリン血症の際に産生されている抗体や抗体断片をMタンパクと呼ぶ。バイクローナル高γグロブリン血症はクローン性増殖したBリンパ球が産生した免疫グロブリンが分離している時(例えば軽鎖と重鎖に分裂している)に生じる。

軽度の高グロブリン血症やMタンパクはTP上昇として検知されないことが多く(Seelig DM. Vet Clin Pathol. 2010.)、また、モノクローナル高γグロブリン血症は認められないがベンスジョーンズタンパクのみが尿中に検出されることもある(Appel SL. J Am Vet Med Assoc. 2008.)。

出典:Kathleen PF, Stefanie K. Veterinary Clinical Pathology A Case-Based Approach. 2015.
Steven LS, Michael AS. Fundamentals of veterinary clinical pathology. ed 2. 2008.
Richard WN, CG Couto, Small animal internal medicine, ed 6. 2019.

ポリクローナル高γグロブリン血症の鑑別

  • 慢性的な膿皮症、
  • 子宮蓄膿症
  • 慢性肺炎
  • 猫伝染性腹膜炎(FIP)
  • マイコプラズマ感染症
  • バルトネラ感染症
  • 住血寄生虫(エールリヒヤ症、アナプラズマ症、リーシュマニア症、シャーガス病、バベシア症)
  • 全身性真菌症
  • 慢性の免疫介在性疾患(全身性エリテマトーデス、多発性関節炎)
  • 腫瘍(リンパ腫、肥満細胞腫、壊死/融解した腫瘍)
  • 健康な高齢猫?

オリゴクローナル高γグロブリン血症の鑑別

  • 膿皮症(Burkhard MJ. J Vet Intern Med. 1995.)
  • 形質細胞性腸炎(Diehl KJ. J Am Vet Med Assoc. 1992.)
  • エールリヒヤ症(Breitschwerdt EB. J Vet Intern Med. 1987.)
  • リーシュマニア症(Font A. J Vet Intern Med. 1994.)
  • バルトネラ感染症(Tabar MD. J Small Anim Pract. 2011.)
  • 猫伝染性腹膜炎; FIP(Taylor SS. J Feline Med Surg. 2010.)

モノクローナル高γグロブリン血症の鑑別

  • B細胞性リンパ腫
  • B細胞性慢性リンパ球性白血病
  • 形質細胞腫瘍
  • 多発性骨髄腫
  • 原発性マクログロブリン血症

犬と猫の低グロブリン血症

  • 異化亢進:甲状腺機能亢進症、腫瘍
  • 遺伝性免疫不全症候群
  • 現在進行形の感染症
  • そりレース犬(McKenzie E. J Vet Intern Med. 2010.)
  • サイトハウンド:グレーハウンドなどは生理的に低タンパク血症である。特にαとβのグロブリンが少ない。(Zaldivar-Lopez S. Vet Clin Pathol. 2011. Fayos M. Vet Clin Pathol. 2005.)