人間の健康診断で肥満が指摘されると、生活習慣病のリスクを避けるために指導が入るように、犬にとっても肥満は万病のもとです。愛犬の健康を守るため、肥満は早期に解消してあげましょう。
✓しつけのご褒美におやつをあげすぎてしまった…
✓可愛いおねだりに負けて、ついご飯を多くあげてしまった…
✓家族がそれぞれおやつを与えるため、1日の総量が把握できていない…
このような理由で、気づかぬうちに愛犬が標準体重を大きく超えてしまうケースは少なくありません。
もちろん、毎日の散歩や運動は犬の健康に不可欠ですが、肥満の予防・解消はまず「食事管理の見直し」から始めることが最も重要です。
犬は自分で食事の量をコントロールできません。「これ以上食べたら太る」と考えることができないため、犬の肥満のほとんどは飼い主さんの食事管理に原因があります。
例えば、体重50kgの人間にとっての「少しのおやつ」も、体重5kgの犬にとっては10倍の量に相当することを忘れてはいけません。
特に小型犬は、体重増加が膝や骨盤、心臓へ大きな負担をかけるため、より一層の注意が必要です。
この記事では、愛犬の健康寿命を延ばすための具体的なダイエット方法について、食事・運動・生活習慣の観点から詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
なぜダイエットが必要なの?病気のリスクがある?
「少しふっくらしている方が可愛い」と感じる飼い主さんもいるかもしれませんが、犬の肥満はさまざまな病気のリスクを高め、健康を脅かす深刻な問題です。
大切な愛犬に一日でも長く健康でいてもらうために、まずは肥満のリスクと、ご自身の愛犬が肥満かどうかをチェックする方法を理解しましょう。
肥満かどうかをチェックする方法
愛犬が肥満かどうかは、「体重」と「体型(ボディコンディションスコア)」の2つの指標でチェックします。
まず、犬種や骨格に応じた適正体重を把握しましょう。ご自宅で体重を測る際は、愛犬を抱っこして体重計に乗り、その数値から飼い主さん自身の体重を引くことで計測できます。
次に、肋骨や腹部を触り、上と横から見たときの体型をチェックします。
【理想的な体型】
- 肋骨:薄い脂肪に覆われているが、優しく触れると一本一本確認できる。
- 腹部:横から見たときに、胸からお腹にかけてなだらかに吊り上がっている。
- 腰:上から見たときに、肋骨の後ろに自然でなめらかなくびれが見られる。
肥満になるとどうシルエットが変わる?
肥満が進行すると、体型には以下のような変化が現れます。
- 肋骨・腹部:厚い脂肪に覆われ、肋骨や骨格に触れるのが難しい、または全く触れられない。
- 腰:上から見るとくびれがなく、寸胴に見える。さらに太ると背中が横に広がって見える。
- 腹部:横から見るとお腹が垂れ下がり、地面と平行か、それ以上に膨らんでいる。
では次に、肥満が引き起こす具体的な病気のリスクについてご説明します。
足腰への負担(関節炎・椎間板ヘルニア)
人間と同じく、犬も体重が増えればその分、足腰の関節に大きな負担がかかります。その結果、関節炎や椎間板ヘルニアといった痛みを伴う病気の発症リスクが格段に高まります。
また、足元が不安定になることで捻挫などの怪我もしやすくなります。特にダックスフンドのような胴長短足の犬種は、肥満による足腰への負担が大きいため、厳格な体重管理が求められます。
糖尿病のリスク
犬も人間と同様に糖尿病を発症します。糖尿病は、血糖値を下げるインスリンというホルモンの働きが悪くなることで、常に高血糖状態が続く病気です。
脂肪や炭水化物の多い食事による肥満は、犬の糖尿病を引き起こす大きな原因の一つです。
肥満だけでなく、トイプードルやダックスフンドなどは遺伝的に発症しやすい傾向もあります。多飲多尿、急な体重減少、嘔吐などの症状が見られたら注意が必要です。重症化すると命に関わる危険な病気です。
心臓への負担
体重が増えると、その分多くの血液を全身に送り出す必要があり、ポンプの役割を担う心臓は常に過剰な働きを強いられます。
この状態が長く続くと、心臓に継続的な負担がかかり、心臓病などの深刻な循環器系疾患の原因となる可能性があります。
肥満がすぐに心臓病に直結するわけではありませんが、長期的なリスクを減らすためにダイエットは非常に重要です。
呼吸器への負担
首周りや胸に脂肪がつくと、気道を圧迫して呼吸がしにくくなります。その結果、少し動いただけでも息が荒くなったり、咳が出たりすることがあります。
呼吸が浅くなるため、常にハァハァと苦しそうな呼吸をすることも少なくありません。
フレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭種や、もともと呼吸器系が弱い犬の場合、症状が悪化しやすいため特に注意が必要です。
vet所属獣医師先生
犬のダイエット方法を5つご紹介!
愛犬のダイエットを成功させるためには、「食事」と「運動」の両面からアプローチすることが大切です。ここでは、今日から始められる具体的な5つの方法をご紹介します。
1.食事の環境を整える
食事は決まった場所(ケージやサークルの中など)で与え、それ以外の場所では食べ物を与えないルールを徹底しましょう。どこでも食べ物をもらえると学習すると、常におねだりするようになります。食事の量や時間は飼い主さんが主導権を持ってコントロールすることが重要です。
また、フードを手から一粒ずつ与えると食事に時間がかかり、少量でも満腹感を得やすくなる効果も期待できます。
2.食事の回数を増やして空腹時間を減らす
犬のダイエットでは、強い空腹感を与えないことが成功の鍵です。1日の給与量を守ったうえで、それを3〜5回に小分けにして与える方法がおすすめです。
空腹時間が長いと、代謝が落ちてかえって痩せにくくなることがあります。食事の回数を増やすことで、空腹によるストレスを軽減し、代謝を維持しながらダイエットを進めましょう。「1日の総量は変えずに、小分けにする」のがコツです。
3.ダイエットに適した食事内容に切り替える
ダイエット中は、栄養バランスが調整された総合栄養食を与えることが基本です。フードを選ぶ際のポイントをご紹介します。
低脂肪
脂肪は必須栄養素ですが、過剰摂取は肥満の直接的な原因となります。ダイエット中は、良質な脂質を適度に含みつつ、全体として低脂肪に設計されたフードを選びましょう。
高タンパク質
タンパク質は、脂肪を燃焼させる筋肉を維持・増強するために不可欠な栄養素です。ダイエット中に筋肉量が落ちると基礎代謝が低下し、リバウンドしやすい体になってしまいます。
質の良い動物性タンパク質をしっかり補うことで、健康的なダイエットをサポートします。フードの原材料を確認し、以下のような高タンパク・低脂肪な食材が主原料として使われているものを選びましょう。
- 鶏ささみ、鶏むね肉
- 鮭、たら
- 鹿肉、馬肉 など
低糖質(低GI)
穀物などの炭水化物は体内で糖質に変わり、過剰に摂取すると脂肪として蓄積されます。特に血糖値を急上昇させる高GI値の穀物(小麦、とうもろこし等)は肥満に繋がりやすいです。
そのため、穀物不使用(グレインフリー)のフードや、サツマイモや豆類などの低GI値の炭水化物源を使用したフードを選ぶようにしましょう。
ドライフード
柔らかいウェットフードは丸呑みしやすいため、満腹感を得にくい傾向があります。一方、適度な硬さのあるドライフードは、しっかり噛むことで満腹中枢を刺激し、歯の健康維持にも繋がります。
小型犬の場合は、粒が小さめで噛み砕きやすい形状のものを選んであげましょう。
おからなどで「かさ増し」する
おからは低カロリーで食物繊維が豊富なため、ダイエットの強い味方です。フードの量を少し減らし、その分茹でたおからをトッピングすると、カロリーを抑えつつ満腹感を維持できます。
ただし、与えすぎは消化不良の原因になるため、1日の摂取カロリーの10%以内を目安にしてください。また、大豆アレルギーのある犬には与えないでください。
おからの他にも、茹でたキャベツやブロッコリーなどの野菜でかさ増しするのも良い方法です。
4.おやつの与え方を見直す
犬の肥満の最大の原因は、おやつの与えすぎです。ダイエット期間中は、基本的におやつを中止するのが理想です。
どうしても与えたい場合は、おやつのカロリー分、1日のフードの量を減らすなど、総摂取カロリーを厳密に管理してください。おやつも食事の一部と捉え、1日に与える総量を必ず守りましょう。
5.無理のない範囲で運動量を増やす
摂取カロリーを消費カロリーが上回ることで、体重は減少します。肥満の犬は体に蓄積した脂肪を燃焼させるため、適切な運動が不可欠です。
ただし、急に激しい運動をさせると関節や心臓に負担をかけるため危険です。まずは散歩の時間を5分、10分と少しずつ延ばすことから始めましょう。家の中でボール遊びやロープの引っ張り合いをするなど、楽しみながら体を動かす機会を増やすことも効果的です。
vet所属獣医師先生
ダイエット向けのドッグフードってどんなもの?
特徴
ダイエット向けドッグフードは、愛犬の体重コントロールを目的として特別に栄養設計されたフードです。通常のフードの量を減らすだけのダイエットに比べ、必要な栄養素をしっかり摂取しながら安全かつ効率的に減量を進められます。
ダイエットフードの主な特徴は、筋肉を維持するための「高タンパク」と、カロリーを抑えるための「低脂肪」「低カロリー」という栄養バランスです。
製品によっては、満腹感を持続させるために食物繊維を強化したり、脂肪燃焼を助けるL-カルニチンなどの成分を配合したりしているものもあります。
ダイエットフードの種類
減量用
体重管理用
適正体重維持用
ダイエットを目的としたフードは、主に「減量用」「体重管理用」「適正体重維持用」の3つに分類されます。パッケージの表記を確認し、愛犬の目的に合ったものを選びましょう。
減量用・体重管理用
これらの表記があるフードは、現在オーバーしている体重を積極的に減らすことを目的としています。通常フードに比べてカロリーが15%以上カットされているものが多く、脂肪分を抑えつつ食物繊維を増やすことで、給与量を極端に減らさなくても満足感が得られるように作られています。
適正体重を維持する用
「ライト」「肥満傾向の犬用」などと表記されることもあり、ダイエット成功後の体重維持や、太りやすい体質の犬の肥満予防に使われます。低脂肪・低カロリーで必要な栄養をバランスよく摂取できるのが特徴で、通常フードより10%程度カロリーが抑えられています。
ダイエット用ドッグフードのメリットとデメリット
メリット
- 少量でも満腹感が得やすい
ダイエットフードは食物繊維が豊富に含まれていることが多く、胃の中で膨らむことで満腹感を与え、食べ過ぎを防ぐ効果が期待できます。
ただし、質の高いプレミアムフードを適正量与え、適切な運動をさせていれば、ダイエットフードに頼らなくても体重管理は可能です。まずは生活習慣全体を見直すことが先決です。
デメリット
- 穀物でかさ増しされている場合がある
安価なダイエットフードの中には、トウモロコシや小麦などの穀物を多用してカロリーを下げている製品があります。
犬は穀物の消化が苦手なため、こうしたフードでは必要な栄養素を十分に吸収できず、栄養不足に陥る可能性があります。また、筋肉の材料となる動物性タンパク質が不足すると、代謝が落ちてかえって太りやすい体質になる悪循環に陥ることもあります。
注意点
ダイエットフードを与えていても、給与量が多ければ痩せることはありません。パッケージに記載されている給与量を目安に、愛犬の活動量や体重の減り具合を見ながら量を微調整することが大切です。
急に食事量を減らすと犬がストレスを感じるため、1週間ほどかけて少しずつ移行・減量していきましょう。
ダイエット用ドッグフードの選び方は?
愛犬の健康的なダイエットを成功させるためには、フードの質が非常に重要です。ここでは、ダイエット用ドッグフードを選ぶ際の具体的なポイントを解説します。
肥満になりやすい原材料
過剰な炭水化物
消化しにくい穀物(小麦、とうもろこし等)
ドッグフードに含まれる「過剰な炭水化物」と「消化性の悪い穀物」は、肥満を助長する原因になり得ます。特に、安価なフードの「かさ増し」として使われる穀物は、犬にとって栄養価が低く、アレルギーの原因になることもあります。
愛犬のダイエットを本気で考えるなら、これらの原材料を避けることが賢明です。
ダイエットフードを選ぶポイント
高タンパク・低炭水化物
グレインフリー(穀物不使用)
人工添加物不使用(無添加)
良質な肉類が主原料
ダイエットフードを選ぶ際は、以下の4つのポイントを必ずチェックしましょう。
高タンパク・低炭水化物
犬の肥満は炭水化物の摂りすぎが大きな原因です。筋肉量を維持し、健康的に痩せるためには、良質なタンパク質が豊富で、炭水化物が抑えられたフードが理想です。
グレインフリー(穀物不使用)
前述の通り、穀物は糖質が多く、脂肪に変わりやすいだけでなく、犬の消化器に負担をかけます。価格は少し高くなりますが、アレルギーや肥満のリスクを避けるため、「トウモロコシ」「小麦」「米」などの穀物を使用していない「グレインフリー」のフードを選びましょう。
無添加
香料、着色料、酸化防止剤などの人工添加物は、アレルギーや内臓への負担など、長期的な健康リスクが懸念されます。愛犬の体に余計な負担をかけないためにも、できるだけ人工添加物が使われていない無添加のフードが安心です。
鶏肉、シカ肉、羊肉などが主原料
原材料表示は、使用量が多いものから順に記載されています。リストの最初に「鶏肉」「鹿肉」「ラム肉(羊肉)」などの具体的な肉の名称が記載されているフードを選びましょう。
「ミートミール」や「肉副産物」といった表記は、どのような部位が使われているか不明瞭なため、避けた方が良いでしょう。
愛犬のダイエット、これに注意しよう!
愛犬のダイエットは、正しい知識を持って根気強く続けることが大切です。焦りは禁物。以下の注意点を守り、安全に進めましょう。
急激なダイエットをしない
早く痩せさせたいからと、急にフードの量を極端に減らしたり、運動量を増やしすぎたりするのは危険です。体に大きな負担がかかり、健康を損なう可能性があります。
ダイエットのペースは、1週間に現在の体重の1〜2%減が目安です。現在の体重と目標体重を獣医師と相談し、無理のない計画を立てましょう。
例えば、9kgの犬が1kg痩せるのは、90kgの人間が10kg減量するのと同じインパクトがあります。焦らず、じっくり取り組むことが成功の秘訣です。
運動量を適切に管理する
肥満の犬は動くことを嫌がる傾向がありますが、食事制限だけでは筋肉が落ちてしまい、健康的なダイエットはできません。
散歩や室内での遊びを取り入れ、消費カロリーを増やすことが重要です。ただし、運動も急に増やすのではなく、愛犬の体力や関節の状態を見ながら徐々に行いましょう。
肥満ではなく病気かもしれないケース
太ってきたことに加え、異常に水を飲む、おしっこの量が多い、毛が抜ける、お腹だけがぽっこり張っているなどの症状が見られる場合、肥満ではなく病気が隠れている可能性があります。
甲状腺機能低下症やクッシング症候群といったホルモンの病気の可能性も考えられるため、ダイエットを始める前に一度、動物病院で健康診断を受けることを強く推奨します。
定期健診とモチベーション管理
ダイエット中は、定期的に動物病院で体重や体型の変化をチェックしてもらいましょう。専門家のアドバイスを受けることで、安全かつ効果的にダイエットを進められます。
また、ダイエットは長期戦です。愛犬が目標をクリアしたときにはたくさん褒めてあげるなど、飼い主さんも愛犬も楽しみながら続けられる工夫をすることが、成功への近道です。
vet所属獣医師先生
犬のダイエットは飼い主さん次第
犬の肥満は、日々の食事や運動を管理する飼い主さんの責任が大きく関わっています。愛犬の健康を守るため、まずは飼い主さん自身が「甘やかしすぎない」と決意し、愛犬と一緒に無理のないダイエットに挑戦しましょう。
この記事で紹介したようなダイエットフードの活用も有効ですが、最も大切なのは、日頃から肥満にならないよう体重管理に気を配ることです。
適度な運動は新陳代謝を高め、太りにくく健康な体質を作ります。愛犬の健康と長生きのために、日々のフード選びや運動量の確保にこだわり、愛情を持って接してあげてください。
そして、愛犬と共に健やかで楽しいドッグライフを送りましょう!