犬の椎間板ヘルニア、症状と治療法は?獣医師が解説する手術費用やなりやすい犬種も解説

犬の椎間板ヘルニアとは、背骨と背骨の間でクッションの役割を担う「椎間板」という軟骨の一部が、本来あるべき位置から飛び出し、脊髄神経を圧迫してしまう病気です。特に胸から腰(胸椎・腰椎)にかけて発症しやすく、強い痛みや麻痺を引き起こします。

特に、軟骨異栄養犬種と呼ばれるミニチュア・ダックスフンドやフレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどは遺伝的に発症しやすい傾向にあります。

この記事では、犬の椎間板ヘルニアの症状やグレードごとの治療法、手術が必要な場合にかかる費用、そして家庭でできる予防・対策について詳しく解説します。

犬の椎間板ヘルニア、手術費用は?

犬の椎間板ヘルニアの手術は、神経に関わるため非常に高度な技術が求められます。ヘルニアの重症度(グレード)や発生部位、犬の体重によって手術の難易度が変わるため、手術費用は個体差が大きくなります。

また、動物病院の設備や方針によっても費用設定が異なるため、正確な金額を知るためには、かかりつけの動物病院へ直接問い合わせることをおすすめします。手術費用本体の他に、一般的に以下の費用が別途必要となることが多いです。

  • 検査費用:神経の圧迫箇所を特定するためのCT検査やMRI検査、術前に行う血液検査など。
  • 薬剤料:術後の痛みや炎症を抑えるための抗炎症薬、鎮痛剤、感染予防の抗生剤など。
  • 入院・管理料:術後の経過観察やケアのための入院費用。
  • その他:必要に応じて、体を固定するコルセット代や、回復を促すリハビリテーション費用など。

これらの費用を合わせると、総額で数十万円以上になるケースも少なくありません。加入しているペット保険があれば、補償対象となるか確認しておくと良いでしょう。

犬の椎間板ヘルニアの症状、治療法は?

椎間板ヘルニアが自然に完治する可能性は極めて低く、放置すると症状が悪化し、後遺症が残る危険性があります。治療法は、症状の重症度を示す5つのグレードに基づいて判断されます。

5つのグレード

グレード1:痛みのみ
グレード2:ふらつき(歩行可能)
グレード3:起立不能(麻痺)
グレード4:排尿困難
グレード5:深部痛覚の消失

グレード1、2の軽度な場合は、まず内科的治療(保存療法)が選択されます。ケージレスト(ケージ内で安静にさせること)を徹底し、抗炎症薬鎮痛薬の投与で痛みと炎症をコントロールします。レーザー治療などを併用することもあります。

グレード3以上で重症化している場合や、内科的治療で改善が見られない場合は、神経の圧迫を取り除くための外科的治療(手術)が検討されます。ただし、手術は愛犬の体に大きな負担がかかるため、年齢や全身の健康状態などを総合的に評価し、獣医師と十分に相談した上で決定することが重要です。

犬の椎間板ヘルニア、かかりやすい犬種の特徴は?

かかりやすい犬種の特徴

軟骨異栄養犬種

ミニチュア・ダックスフンドが椎間板ヘルニアになりやすいのは、遺伝的に軟骨が変性しやすい「軟骨異栄養犬種」に分類されるためです。

軟骨異栄養犬種は、若いうちから椎間板の水分が失われて硬くなりやすい特徴があります。代表的な犬種として、ミニチュア・ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ビーグル、シーズーなどが挙げられます。

また、犬種に関わらず肥満も発症の大きなリスク要因です。体重が増えることで背骨、特に腰椎へ常に過度な負担がかかり続けるため、椎間板ヘルニアを引き起こしやすくなります。日々の体重管理は非常に重要です。

犬の椎間板ヘルニア、初期症状の特徴は?

初期症状の特徴

抱っこを嫌がる・痛がる
元気や食欲がない

歩き方がおかしい

椎間板ヘルニアの治療では早期発見・早期治療が鍵となります。ポイントは「普段の愛犬と比べて違いがあるか」です。日頃から愛犬の様子をよく観察し、以下のような初期症状のサインを見逃さないようにしましょう。

初期症状1. 痛みからくる行動の変化

背中に痛みを感じるため、体に触られたり動かしたりすることを嫌がります。特に抱っこしようとすると「キャン!」と悲鳴をあげたり、唸ったりするのは、多くの犬に見られる典型的な症状です。

初期症状2. 元気・食欲の低下

動くと痛むため、活動量が減り、散歩に行きたがらない、じっとして動かないといった様子が見られます。痛みが原因で食欲が落ちることもあり、他の病気と見間違いやすい初期症状の一つです。

初期症状3. 歩行の異常

痛みをかばうように、後ろ足がふらついたり、足をもつれさせたりすることがあります。腰を揺らしながら歩く、段差を躊躇する、足の甲を地面につけて歩く(ナックリング)といった歩き方の変化は、神経に異常が出始めているサインかもしれません。

犬の椎間板ヘルニア、発症しないように対策はできる?

遺伝的な要因をなくすことはできませんが、日常生活の中でリスクを軽減するための対策は可能です。特に「腰への負担軽減」と「適正体重の維持」が重要なポイントになります。

  • 生活環境の見直し:フローリングなどの滑りやすい床は、足腰に負担をかけます。滑り止めのマットやカーペットを敷く、ソファなどへの飛び乗り・飛び降りを防ぐためにスロープを設置するなどの工夫が有効です。
  • 激しい運動を避ける:急なダッシュや方向転換、過度なジャンプ、階段の頻繁な昇り降りは背骨に大きな負担をかけます。特に軟骨異栄養犬種は注意が必要です。
  • 肥満の予防と解消:肥満は腰への負担を増大させる最大の要因の一つです。バランスの取れた食事と適切な量を心がけ、愛犬の適正体重を維持しましょう。
  • 正しい抱き方:抱っこする際は、片手でお尻と後ろ足を支え、もう一方の手で胸の前を支え、背骨が地面と平行になるように安定させてあげましょう。

椎間板ヘルニアはできるだけ早期に発見を!

犬の椎間板ヘルニアは、重症化すると麻痺や排泄障害といった重い後遺症が残る可能性のある、非常に怖い病気です。

特に活発に動き回ることが好きな犬にとって、痛みや麻痺は大きなストレスとなります。日頃から生活環境や体重管理に気を配るとともに、少しでも「いつもと違う」と感じるサインがあれば、自己判断せずに速やかに動物病院を受診し、獣医師の診断を仰ぐようにしましょう。

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